介護・福祉・医療分野の取材を始めたのが、ちょうど「介護福祉士」が国家資格化された頃でしたから、それから20年近くが経ちました。その間、施設や在宅を問わず、現場にずいぶんと足を運びました。
最初の頃は、「特別養護老人ホーム」の呼称さえ知らず、見ること聞くことすべてが新鮮でした。と同時に、それまでの人生経験で身につけてきた常識とは相容れない「違和感」を覚えたことが何度かありました。
例えば、利用者さん宅を訪問するホームヘルパーさんに同行したときのことです。そのヘルパーさんは、「こんにちは、ヘルパーでーす」と言いながら玄関ドアを開け、その家の住人の返事を聞かずにさっさと家の中へ入っていきました。まるで外から帰った子どもが「ただいまー」と言いながら家に上がるような感じです。後で「利用者さんとは、家に入るときの取り決めをしている」と聞きましたが、違和感を拭い去ることはできませんでした。その他、友だち感覚で利用者と話すヘルパーさん、冷蔵庫のドアや箪笥の引き出しをことわりもなく開けるヘルパーさんの姿にも違和感を覚えました。
時間の経過とともに、そうした違和感は薄れていきましたが、ある日、「休日に自分の子どもと一緒に利用者さん宅を訪ねるヘルパーがいる」というとんでもない話を聞き、玄関からスルスルと入るヘルパーさんたちに抱いた違和感がよみがえってきたのです。
訪問介護は、利用者さんの生活にかかわる仕事です。生活の深い部分を覗いてしまうこともあるでしょう。そんなヘルパーさんに親近感をいだく利用者さんも少なくありません。老いの寂しさや切なさも手伝い、もたれかかってきたり、家族同様のつき合いを求めたりする利用者さんもいるはずです。だからこそ訪問介護サービスには、「よそよそしい」とさえ感じられるほどの格別な「節度」が求められるのだと思います。