私たち「物書き」にも当然ながら職業倫理はあります。例えば「取材の上で知り得た情報を取材相手と合意した目的以外に使わない」などは優先度の高い職業倫理です。だから私たちは思い切って取材ができます。「差し支えなかったら」と前もって了解を得たうえで、仕事・趣味・家族・考え方・暮らし向きなどのなかから、取材相手を理解するために必要だと思われる事柄を聞いていきます。
取材はほとんど「初対面」ですが、複雑な家族関係や経済面からみた生活状態を聞くことだってあります。それを可能にするのが、「短時間で信頼関係を構築する技術」と「自分自身の職業倫理に対する自信」です。
対人援助においても、いわゆる「家庭の事情」を深く知る必要がある場面も多いことだと思います。それなしに的を射た援助計画が立てられないこともあるはずです。しかし、「それを聞いては失礼だから」と思うのか、上辺だけのアセスメント情報で計画を立案することも少なくないと聞いています。
取材に同行してくれた対人援助職の方から、「今日は、私たちの知らないことを話してくれましたね」と言われることが少なくありません。その際は、「生活上の利害関係がありませから…」と返すのですが、「そんなことも知らずに援助計画が立てられるのだろうか」と不安になることもあります。
対人援助職には、個別性の尊重や守秘義務など極めて崇高な職業倫理があるはずです。その職業倫理があるからこそ、深い話を聞くことができるのではないでしょうか。
蛇足ながら、取材において私が心がけていることを付け加えておきます。それは、「相手を傷つける質問を決してしないこと」。家族を失うなどして悲嘆にくれている人にマイクを突きつけ、「今のお気持ちはいかがですか?」と聞く場面がしばしばテレビで放映されます。私は、取材側にいかなる事情があるにせよ、その行為を許すことができません。