映像・雑誌・単行本の取材で、今まで実に幅の広い経験をすることができました。そのなかから、驚きに満ちた体験をピックアップし、お届けしていこうと思います。
10年ほど前に、アルコール依存症をテーマにしたビデオを作りました。その時のビックリ度は、今でも強烈な記憶として体の中に刻印されています。
アルコール依存症の男性に、「中島らもの『今夜、すべてのバーで』(講談社1991)はすごいですよね」と聞いたことがあります。同書は、アルコール依存症を題材にした小説ですが、その男性は「私も読みましたけど、事実はあの程度じゃありませんよ」と返してきたのです。その後、10人以上のアルコール依存症の人(インタビューの時点で酒断ちを続けている人)にインタビューを行い、男性の言葉の重さをしみじみと噛みしめることができました。
「ウイスキーのビンを団地のゴミ置き場に隠し、家族の目を盗んで飲んでいた」という中年男性。 「ワンカップ酒を自動販売機に求めに出た私をつけてきた子どもを見返した顔は、まるで夜叉のようだった」という母親。 「親にもらった車の購入代金すべてを飲み代に充て、血を吐いてもなお飲み続けた」という若者。 「骨がボロボロになり歩くことができなくなり、這いつくばって公衆電話にたどり着き、別れた妻に『助けてくれ』と最後の力を振り絞り懇願した」という男性など、すべての方の家庭は崩壊し、生死の境をさまよったという体験が綴られたのでした。
アルコール依存症は、酒を断つ以外に助かる道はない病気です。ただし、当事者にとって酒断ちは極めて困難な道のりであり、また、ご家族も酒の上の失敗を尻ぬぐいしたりなど、「アルコール依存症であることを可能にする存在」になっている場合が少なくありません。ホームヘルパーなどの第三者の目が、多くの命を救うことになるのだと思います。