「明日はだれが来てくれるの?本当に来てくれるの?」
「はい、ヘルパーの佐藤がお伺いしますので、どうぞ安心してください」
一人暮らしの水越さん(仮名)からケア・センターやわらぎ(以下「やわらぎ」)に8回目の電話があった。
「昨日は13回あったから、まだかかってきますね」―不安な水越さんは夕方になると事務所へ電話をしてくる。
なんとか安心できる状況を作らなければと、ミーティングを開催した。
通常行なう、要因の洗いだし、その解決方法を皆で考えるというパターンで始めたら、すでに話し合いはしていて、策は考えられないという。
いやそんなことはないはずだと、言いだしっぺの私としてはもう一度洗い出してみようと呼びかけた。
解決できていないことが1点だけあった。
水越さんはヘルパーが帰る時に、りんごやらパンやら家にある食べ物をヘルパーさんに持っていってと、毎度懇願する。
けれど、やわらぎは物やお金を頂く事を厳禁しているので、ヘルパーは頂くことはできないと、頑なに固辞してきた。
私は「ああ、これだ!」と直感した。
「明日からは頂くことにしよう。ありがとうと言って頂いてください」と決めた。
そして、なにを頂いたか、事務所に報告してくださいと取り決めた。
1日、1日とだんだんに電話が減り、1ヶ月にはまったく無くなった。
どんな仕事も基本があって応用がある。
しかし、介護現場はすべて一人一人の違いが当たり前。
それでも基本や約束事はキチンとしていなければならないし、すべて特別事例として扱うことはリスクが高すぎることになる。
そこで試されるのが、私たちの判断能力なのだ。
基本はキチンと踏まえた上で、応用をどのように決めていくかということである。
ケースバイケースという言葉と意味があるが、これとはすこし異なる考えで、すべてをケースバイケースということではない。
ここを間違えずに理解することがポイントである。