怯えたような顔をして、上がり框を指差し、
「先生!気をつけて下さい。夕べ男の人が、そこに毒を撒いていきました。」
ピカピカに磨かれて床には、何の変化もありません。
統合失調症の患者様によくある、見えないものが見える幻覚の症状です。
長引く新型コロナ感染症の影響で、精神疾患患者の症状の悪化が懸念され、実際に報告されています。
今回の新型コロナ感染症は、地下鉄サリン事件や福島第一原発事故と同等の特殊災害に分類されています。
それに加えて、ロシアのウクライナ侵攻です。悲惨な映像が後を絶ちません。
新型コロナ感染症の拡大は定期的な受診や継続的な決められた時間に決められた量の服薬の機会を阻害します。
統合失調症は、心や考え方、行動をまとめることがうまくできなくなる病気です。
そのことによって、色々な人間関係に影響が出てきます。
統合失調症の症状には、大きく分けて陽性症状、陰性症状、認知機能障害があります。
陽性症状には、幻覚と妄想、そして思考障害があります。
幻覚は、人がいないのに、命令する声やかげ口が聞こえる幻聴と、ないものが見える幻視があります。
妄想には、他人に監視されていると思い込む、テレビやラジオで自分のことを報道している、などがあります。

思考障害は考えがまとまらず、一貫性を欠いたり、支離滅裂な会話になったりします。
陰性症状には、感情の平板化、思考貧困、意欲の欠如、など引きこもりがちになります。
認知機能障害には、記憶力が低下し、注意・集中力を無くし、判断が出来ない、などが起こります。
発症の原因ははっきりしませんが、脳内のドパミンなどの神経伝達物質のバランスに乱れが起き、それに加えて、遺伝的要因、多大なストレス、人生の転機などが原因と言われています。
統合失調症の治療には、薬を使用する薬物療法と、専門職によるカウンセリングやリハビリによる心理社会療法があります。

これらの療法をうまく組み合わせて行う必要があります。
治療の最終目標は、幻覚・妄想を減らし、社会生活が維持でき、再発を防止する事にあります。
統合失調症治療薬
抗精神病薬

種類
1. 定型抗精神病薬(従来型)
ドパミンD2受容体を遮断して、幻覚・妄想や思考障害などの陽性症状に効果があります。
2. 非定型抗精神病薬(新規)
ドパミンD2遮断作用のほか、セロトニンHT2A受容体の阻害効果を持っており、陽性症状に効果があります。
副作用の錐体外路症状(手がふるえる、体が硬くなる、など)が少なく、陰性症状(感情の平板化、思考の貧困、意欲の欠如など)に対する効果は定型抗精神病薬よりも高いとされています。
セロトニンHT2A受容体の阻害効果により、ドパミンの分泌が上昇し、陰性症状や認知機能障害へも効果が期待できます。
表にまとめました。
抗精神病薬
種類 | 一般名 | 商品名 | 副作用 |
---|---|---|---|
定型抗精神病薬 | ハロペリドール | セレネース | 手の震え・体が硬くなる |
ペルフェナジン | トリラホン | 起立性低血圧・口渇 | |
ネモナプリド | エミレース | ジスキネジア・ふらつき | |
クロルプロマジン | ウインタミン | 眠気・女性化乳房 | |
プロペリシアジン | ニューレプチル | 不眠・倦怠感 | |
スルピリド | ドグマチール | 食欲増進・食欲不振・浮腫 | |
非定型抗精神病薬 | リスペリドン | リスパダール | 興奮・多飲・低血糖 |
ペロスピロン | ルーラン | 高血糖・痙攣・体重増加 | |
クエチアピン | セロクエル | 横紋筋融解症・傾眠・排尿障害 | |
オランザピン | ジプレキサ | 高血糖・低血糖・アカシジア | |
アリピプラゾール | エビリファイ | 眠気・口渇・頻脈 |
注意事項
・服薬を勝手に止めないように。
・アルコールやタバコは止め、車の運転も注意。
・服薬確認は行う。
・副作用の出現の確認。