■利用者さんの「パワー」を引き出すのも、私たちの仕事。
▲田村さんが料理する間も、利用者さんがすぐとなりに座って会話は続く。
―そのほか、利用者さんとの交流の中で、印象深いエピソードはありますか?
田村さん:食事を作るために訪問していた男性の利用者さんで、ご飯を食べ終わるとすぐベッドで横になってしまう方がいました。いつも不機嫌で暴言を吐き、耳が遠いからといって、わざと大声で話すような方だったんですね。
当時は、少しでも元気になってもらいたいという思いから、その利用者さんに「今日は天気がいいから、日光浴しましょう」「お庭の花がきれいですね」などと、お声をかけるようにしていました。すると、少しずつベランダに出る回数が増えて庭には鉢植えが増えていき、今では庭がお花でいっぱい。奥さまとのあいだでも、「今度はどういう花を買ってこようか?」なんていう話題が出てきて、生活事態に彩りが生まれ豊かになってきたとお話していらっしゃいました。
▲利用者さんも一緒に料理する。「仕事の帰り道は、いつも反省会です」と田村さん。
―田村さんの励ましの言葉で、やる気を出していただけたのかもしれませんね。
もともと素敵な利用者さんでしたから、「色が白くてダンディだね」とか「おしゃれさん」と、ひと声かけることもありました。 それから私の訪問後に訪問看護がある日には、「今日は看護師さんが来るから、あまり汚れた格好はやめようね」と声をかけ続けると、「田村さん、そろそろ着替えたいよ」と自発的に着替えをなさるようになったんです。最近では、ちょっと服が汚れただけでも、「着替えてきれいにしたい」とおっしゃるんですよ。
目覚めたら着替える、テレビを見るときは椅子に座るといった生活リズムが作られていくと、ベッドにいる時間が減ってきます。すると今度は自分からトイレに行きたいと言ってくださって、オムツの枚数も徐々に少なくなってくるんです。 こうして少しずつでも、生活にメリハリをつけて元気を取り戻していただきたいと考えているんですね。 ほかに料理の苦手だった利用者さんが、一緒に料理をするようになったという出来事もありましたよ。
―何かを利用者さんと「一緒にする」こともポイントのようですね。
田村さん:ひとりだと芽生えない意欲も、一緒にすることで楽しさを見出せるんだと思います。私が野菜や花を育てている話をすると、目をキラキラさせながら張り合うように「私も育てたい」と言ってくださる利用者さんもいるんですよ。そんな姿に希望を感じて、もっと利用者さんにしてさしあげられることはないだろうかと、ついつい考えてしまいます。
>▲この日のメニュー、きんぴらごぼうとポテトサラダが完成。
―元気な姿は、見ているほうも元気を分けてもらえますよね。
田村さん:前向きに生きている姿を見せていただけて、逆に私もパワーをいただいているくらいです。利用者さんのお宅に向かうときのペダルを踏む足並みも、ルンルンと軽い気持ちになります。
―最後に、田村さんが目指すヘルパー像を教えてください。
田村さん:利用者さんが持っているパワーを引き出すのも、私たちの仕事じゃないかなって思うんです。私が目指しているのは、それぞれの利用者さんが持っている“元気の種”から花を咲かせることのお手伝いができるヘルパーです。誰も、寝たきりのお年寄りを増やしたくはありませんよね。利用者さんには沈んだ表情よりも、明るく生き生きした笑顔で毎日を過ごしていただきたいですから、私はいつも、どうすれば前向きになっていただけるだろうかと考えています。
利用者さんのやる気を引き出すことが、ヘルパー・田村とし子のカラーなんだ、と自信をもって接していきたいですね。
■編集後記
▲次回の訪問予定を確認する田村さんと利用者さん。
取材同行させていただいた田村さんが担当されている利用者さんは、私たちの到着を玄関の外に出て待っていてくださいました。田村さんによれば、今回ばかりではなく、いつものことなのだそう。
料理の味見の際、手のひらのおかずを味わう利用者さんと、それを見守る田村さんは母と子を思わせるようでもありました。
帰る際にも、自転車が見えなくなるまで玄関の外で手をふる利用者さん。
それらの姿に、田村さんの訪問を本当に心待ちになさっているんだなあ、と田村さんと利用者さんの深い絆を感じました。
今回の取材にご協力いただいた、「三鷹市シルバー人材センター」および利用者さまには、心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。
「へるぱ!」運営委員会一同