■家族の死を受け入れることで、ご利用者様への関わりも変わりました。
▲ご利用者様へのメッセージを手書きしながら、対応策について打合せ。
―三澤さんはご家族の介護も経験なさっているとお聞きしたのですが。
三澤さん:介護の仕事を始めようかと考え始めた頃に、祖父母も介護が必要になりました。ちょうど子どものオムツ交換をしながら祖父のオムツ交換や認知症による異常行動の対応なども行っていましたね。
―ご家族の介護から学ばれたことは何でしょう?
三澤さん:家族の介護から学んだのは、人間として当たり前なのですが“人は死ぬ”ということです。私は、祖父母がなくなるまでの30年間、身内の死を経験したことがありませんでした。ですので、恥ずかしい話ですが、自分の家族は死なないと、ずっと思っていたんです。だから祖母の状態が悪化しドクターからとても苦しい宣告を受けたときの気持ちは、これまでに感じたことのない大きな石を体にのせられたような状態でした。そして病院のベッドに横たわって目をつぶっている祖母の姿を眺めながら、これから来る「死」という現実を自分自身がどのように受け止めていけばいいのか、よく分からない恐怖に包まれました。
▲「5年前に祖母からもらった」という手作りのお守りは、着物姿の女の子。財布に入れて大事に持ち歩いているそう。
そして祖母が病院で亡くなったと聞いたときは、自分の身体の力がどこかへスーッと抜けていく感じがして、子どもを抱いたまま何も考えられずに、しばらくの間、放心状態となっていました。「本当に死んでしまったんだ……、どうして?」と。この信じられない気持ちは、身内でないと分からない。それまでは当たり前に揃っていた家族の状況が一瞬にして変わってしまった。その現実を受け入れるまでには、私自身とても長い時間がかかりました。実は今でも、まだ祖母が一緒にいるように思えることもあります。 そして、その経験から、人の死というものに対しての自分自身の考え方や受け止め方が少し変わったことも事実です。
―その変化について、詳しくお願いします。
三澤さん:ご利用者様やそのご家族様への対応が変わりました。祖母が亡くなった時には、すでに介護の仕事を始めていて、ご利用者様の死に触れる機会もありましたが、あくまで仕事場での関わりと割り切って距離を置いた形で捉えていました。しかし祖母の死を経験したことにより、それからはご家族側の訴えや気持ちについても考えられるようになり、家族と本人の両側から察することが大切だということも学んだと思います。
私が今この方にできることは何だろうか、私ができなくてもご家族様にはどんな方法でこのご利用者様に関わってもらえるのだろうかと、直接感じて真剣に向き合う大切さ、ご利用者様一人ひとりがご家族にとってかけがえのない存在なんだということを常に考えて支援に繋げられるようにと心がけるようになった気がします。
―貴重なご経験をされて、三澤さんは今後どのように介護と向き合っていきたいと考えていますか?
三澤さん:私自身は仕事に関して厳しくうるさい存在でありたいと今は考えています。介護はヘルパーとしてご利用者様のお手伝いをするものではありません。医療や看護など、そのご利用者様に対して関係のある方たちが一つのチームとして連携し自立に向けて支援して行くチームケアなんです。
▲ヘルパーステーションの窓際には、ご利用者様と紙で作ったというぶたの置物。
介護を始めた頃はご利用者様に優しさや元気を……という思いもありました。しかし数々の経験や学びを通して今思うのは、自分の気持ちでケアするという表面的な優しさだけが介護ではない。厳しさの中にある優しさが介護だということ。そして自立支援が叫ばれているように、ご利用者様のことを真剣に考えていくのならば、何でもしてくれるヘルパーさんよりも、ご利用者様の存在を受け入れてご利用者様の今後についてご利用者様と一緒に考え、その考えに向かって必要な部分を支援できるヘルパーさんが必要だと思うんですね。様々な関わりがあって、その中に介護の本当の意味があると思っています。
だからサービス提供責任者であるからには、広い視点で現状を見つめ、ご利用者様自身の役割とヘルパーとして支援していく部分をしっかり把握して、常に良好な状態を保てるように関っていきたいと思います。
■編集後記
▲ヘルパーステーション桑林のスタッフの皆さん。
「三澤さんが作ったんですよ!ぜひ召し上がってください」
そういって介護事務の女性から出されたのは、砂糖がまぶされたゴマ風味ドーナツのお茶菓子。
手作りをスタンスとしているのは、三澤さんの子どもの頃からの家庭のあり方だったのだそうです。「お誕生日は大人も子どもも関係なくお祝いしますし、プレゼントもお金をかけずに手間をかけるんです」
だからこうして忙しい中にぽっとお邪魔した記者にも、手作りでおもてなしという心配りを欠かさないのが当たり前。そういう日常があることを感じさせられました。
▲三澤さん手作りのドーナツ。とてもおいしかったです! ご馳走様でした。
ご利用者様から「忙しそうね」といわれるのが、いちばん傷つく言葉という三澤さん。手間をかけながらも、忙しさを感じさせないための努力は相当なものなのだろう、と思わされました。
今回の取材にご協力いただいた、「ヘルパーステーション まほろば」のスタッフの皆さま及び利用者さまには、心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。
「へるぱ!」運営委員会一同