■時として、自分の考えを疑ってみることも大切
▲食事介助が終わると、台所を簡単にお掃除。これで2件目の訪問は終り。
―「施設・デイサービス・訪問介護」と3つの業態を経験されて良かったと思うことは?
室岡さん:自分の仕事や利用者様との関係などを多角的に見られるようになったことですね。施設とデイサービスと訪問介護―この3つは果たす役割が違います。当然、仕事の内容も違いますし、利用者さんとの関わり方や距離感も違います。それらを全て経験しているからこそ気付くこと、難しいと思うことが多々あります。特に、利用者さんの目線で物事を見ることの難しさを実感していますね。
―というと?
室岡さん: 施設やデイサービスで働いていた頃も、入所者や利用者の方々に喜んで頂こうと色々と工夫して一生懸命に頑張っていたつもりです。お世話をすることも、レクリエーションを行うことも全力投球でしたし、それでいいのだと信じて疑いませんでした。でも、訪問介護に携わるようになって、当時の私の行動は間違っていたんじゃないかなぁって思うようになりました。
今振り返ってみると、施設勤務の頃はお世話(作業)に一生懸命で、利用者さんに寄り添った介護ではなかったような気がするんですよね。ある種、自己満足のための介護だったと言えばいいでしょうか。入所者の方々の気持ちより、自分の気持ちのほうが大事だったように思います。
▲訪問から戻って、食事をしながら午後の打ち合わせを行う室岡さん。
―なるほど。
室岡さん:デイサービス勤務の頃も同じですね。施設もデイサービスも、周囲で働く人たちも若かったし、勢いがありました。だから毎日エンジン全開で張り切って仕事をしていました。レクリエーションを企画、実行することもとても楽しかったですし、それが利用者さんのためになると信じていました。でも、そういった事自体を楽しむあまり、利用者さんの本当の気持ちをないがしろにしていたかもしれないなと思うようになりました。
―そう思うような出来事が何かあったのでしょうか?
室岡さん:ええ。訪問介護をするようになって、デイサービスから帰ってこられた利用者さんが疲れ果ててグッタリしているのを目の当たりにしたんですよ。それを見て、デイサービス勤務の頃、「90にもなるのに・・・こんなことやってらんない!」という利用者さんに、「ダメよ、リハビリなんだから」なんて言って無理強いするように運動させていたことを思い出しました。そして、ハッとしました。
リハビリだと言って運動させていたことは、果たして利用者さんの求めたことだったのだろうか。
クタクタになるまで無理に運動させることが、デイサービスの勤めだったのだろうか。
自分の体力を基準にしてレクリエーションを考えていたのではないだろうか。
「高齢者向け」という勝手な概念を持って、レクリエーションを企画していたのではないだろうか。
▲「介護の仕事は、毎日新しい発見があるから楽しい」―そう室岡さんは話してくれた。
色々な思いが頭をよぎりました。自分では相手の立場になって考えているつもり、利用者さんのために良かれと思ってやってきたつもりでも、実は全くの的外れで、相手に余計な負担をかけてしまったり、不快感や不信感を与えてしまったりすることもあるんだと痛感しました。
目線の軸が「自分」にあるのか「利用者さん」にあるのかで、物事はがらっと様子を変えてしまうんだと実感して以来、時として、自分の考えを疑ってみることも大切なのではないかと思うようになりました。そして、もっと利用者さんの気持ちに寄り添ったサービスを提供していきたいと思うようにもなりましたね。こういう気持ちになったのも、訪問介護に関わるようになってからです。
―では、転職して良かったと思いますか?
室岡さん:ええ、そう思います。訪問介護を通して見えないものが見えてくるし、より自分自身が成長できると思います。まだまだ未熟で足りないところばかりですが、利用者さんに喜んでいただけるようなサービスを提供できるよう今後も頑張っていけたらいいなぁと思っています。
■編集後記
▲「ゆうゆうステーションおやま」の皆さん
「ゆうゆうステーションおやま」にお邪魔したのは、燦々と太陽の光が降り注ぐ7月中旬のことでした。暑い夏の日差しの中を車で移動し、利用者さんのご自宅に到着すると早速お仕事にとりかかる室岡さん。自分の額の汗を拭うのは後回しにして、利用者さんやそのご家族とコミュニケーションを図りながら一生懸命にお仕事をなさる姿が印象的でした。
密着取材にご協力くださった室岡さん、ならびに「ゆうゆうステーションおやま」の皆様。同行取材の際にお邪魔しましたご利用者様とそのご家族様に、この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
「へるぱ!」運営委員会一同