サービス提供と教えるということ。
常に生の現場を見ているから、自信をもって生徒に伝えることができます。
―では今度は、下遠野さんがなぜ自らヘルパーステーションを自ら立ち上げようと思われたのかその経緯をうかがってもよろしいでしょうか?
施設で働いたのちデイサービスで数年働いたんです。そのとき、何だか物足りなさを感じてしまって。おむつ交換や歩行介助など施設で培ったスキルがデイでは全く生かされないんですよ。皆さん杖を使って一人で歩ける方たちなので、手を差し伸べる機会が少ないんですね。でも自分はもっと寝たきりの方などサポートなしでは生活できない方たちの側に寄り添っていたいという想いがありました。生の現場とでもいいましょうか。その気持ちが徐々に高まり、だったら自分でつくってしまおう、と気付けば行動に起こしていましたね。多くの方の手助けを得ながら、立ち上げて今年で早4年です。
事業所ないにある養成校の風景。授業を受ける曜日も自分で選択できて融通がききます。
―同時に養成校も併設されていらっしゃるとか…。
はい。介護の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい、そして一歩踏み込んだケアのできる福祉人を育てていきたいという展望もありましたので、一緒に立ち上げることにしました。施設で働いていたときに非常勤で養成校の講師をしていたので、自分なりのノウハウがあったのも実現できた要因だったかと思います。
―下遠野さんも教壇にたたれているんですよね。実際に教えられていて訪問とはまた違ったやりがいがあったり?
私は生の介護現場をリアルに伝える科目にしか入っていません。認知症のケア・心構えや実際に現場で起こりうる場面を想定した介助方法など実践的カリキュラムがメインです。教科書にはない自分の経験を元にした情報を率直に伝えていくことが、私の使命だとも思っています。逆に常に介護の現場を見続けているからこそ、自信をもって人に伝えられるというのもありますよね。
寝たきりの方を車いすに移動させる介助の実践中。生徒同士で両方の立場を体験!
―"現場でのケア"と"講師であること"がお互いにいい刺激を与え合っている感じですか?
そうですね。受講生やスタッフに言った以上、自分もきちんと出来ていなくちゃいけませんよね(苦笑)「きちんとできている?足りないところはない?」と我が身を省みるいいきっかけにもなっています。常に新鮮な気持ちで現場に取り組めるのはすごく大切なこと。教え、教わり、といった感じです。
―常にご利用者さんと触れ合う現場でサポートしていきたいと先ほどおっしゃいましたが、普段努力されていることなどありますか?
とにかくご利用者さんについての情報収集をします。観察に始まり観察で終わるといってもいいほど。いかにしてこのご利用者さんを輝かせようか、どうしたらもっと居心地よく過ごしてもらえるだろうか、と常にセンサーを働かせています。美空ひばりさんが好きだといえばTUTAYAに行ってCDを借りてきたり。興味をもって関わることが、一歩踏み込んだケアにもつながるんだと思いますよ。
KSケアサービスで働くスタッフのみなさん。あったかい空気が伝わってきます。
―「興味をもってご利用者さんと関わる」人同士の付き合いであれば当たり前のことですが、案外実践するとなると難しいような…。これから介護を目指す人たちにもぜひ意識してもらいたいことですよね。
テキストには身体的、心理的、社会的観察って書かれてありますが、「観察して」と言ってもヘルパーには響きません。でも好きな人の情報は必死に集めますよね? 「こういう喋り方をするんだ、こんな風に笑うんだ、怒るポイントはここね」とか。その観察力をご利用者さんに向けるだけです。そうすると色々なことが見えてきて楽しくなるはず! 「相手の立場にたって」とよく言われますが、やはり自分がその立場にならないと本当の意味での理解は難しいですよね。それでも理解する努力を惜しまず、『私だったらどうする!?』と考え続けることが他者理解の一歩かなと思います。介護は本当に深いですね。
編集後記
とにかく面白い方、というのが下遠野さんとお話させていただいた印象です。ご利用者さんとの会話も他のヘルパーさんに「漫才みたい」と言われてしまうほど、人を楽しませる、和ませるといった会話に長けた方でいらっしゃるなぁ・・・と。
なんといっても介護への情熱は人一倍熱い! 「どんながあってもご利用者さんの側でケアを続けていく」とおっしゃるその言葉には一点の曇りもないように感じました。
「いつか、ご利用者さんが安心して住めて、障害者の方も気軽に遊びに来られる、そんな地域に根ざした施設をつくりたい」と夢を語っていただいのですが、下遠野さんならできる気がします! 出来ない、ではなくて、いかに出来るようにするか!ですものね。
今回、取材にご協力いただいた下遠野功一さんはじめ、『KSケアサービス』の職員の皆さまには心からお礼を申し上げます。
「へるぱ!」運営委員会一同