この仕事を通して気づいたこと
ありのままの自分で接することで本当の信頼関係を築くことができる。
ご利用者さん宅へは自転車で。よく走れるようタイヤが大きいものを自分で購入!
―田中さんがご利用者さんと3年間接してきて、今意欲的な気持ちで向き合えているのは、もちろん様々な心境の変化があったからだと思いますが、何か印象的な出来事などありましたか?
そうですねぇ。何かが変わったのは、構えるのをやめてからですかね。僕、コンビニでバイトしていたので営業スマイルが染みついていたんです。それが自分でも気づかぬうちにケアに入っている時、自然と出ていたのでしょう。「田中北斗です。宜しくお願いします」って笑顔で言ったら「何で楽しくないのに笑っているんですか!」って自閉症のご利用者さんに言われ、もう図星で…(苦笑)。見抜かれた!!って焦りました。その後ケアに入った時も「田中さん疲れてますね」って言われたり。僕らが気づかないようなことにも敏感に反応することに驚きつつ、すごいなとも思いました。「なんかもう演技できないわ…」って肩の力がふっと抜けて、それ以来はありのままの自分で接することにしたんです。
自転車は事業所前に置いてあるので、訪問のたびに階段を上げ下げします。
―田中さんが変わったことでご利用者さんとの関係性にも変化がありましたか?
だいぶ変わりました。演技することをやめてからは、相手の要望だけではなくて自分の考えや気持ちも不思議とご利用者さんに伝わるようになりましたね。あとは明るくなった、柔らかくなったって言われます(笑)。
港南台は坂の多い街。アップ・ダウンが絶えません。体力勝負!
―前はとっつきにくかったってことですかね(苦笑)?
みたいですね。地元に戻っても「お前変わったなぁ。昔は話しかけたら怒るし、殴るし」って(苦笑)。どれだけ暴君だったんだ? ってお恥ずかしい話ですけれど。おそらく自分からすごい壁をつくって、人を信じることをしてこなかったんだと思います。友達はいるけれど、本当の信頼関係って誰一人としてつくれていなかったのかも…と気づかされたのもこの仕事を通してです。本当に色々なことに気付かされましたよ。自分をつくることをやめてからは、ご利用者さんはもちろん、友人ともいい関係性が築けていると思います。
ご利用者さん宅に向かう最中でも介護に対して色々と語っていただきました。
―この仕事を通して、自分らしく生きることができるようになり、また自分らしくいられるのが今の仕事でもあると気づくなんて、とてもステキなことですね。最後に今後の展望などありますか?
自立を促すサポートを続けていきたいです。以前ご利用者さんで寝たきりに近い方がいらっしゃいました。その方のケアに何度か入るなかで「休みは?」「休みは多くないけれど仕事が好きだから辛くないですよ」という会話があったんです。そしたら、ご利用者さんが「そういう話を聞いたら俺、負けられないわ」って。「張りあってくるんですか?(笑)」と聞き返したら「張り合うどころじゃないよ、越えるんだよ」って。その方、今では車を運転するまでに回復したんですよ! 久々にお会いしたときに「君たちのおかげでここまで元気になれた。たぶん君たちじゃなかったらここまでやれなかった。」って言ってくださって、最高に嬉しかった経験があります。自立は簡単なことではないですが、僕たちのサポートを武器にご利用者さんにも頑張ってもらいたい、そう思います。また、そう思っていただけるようなケアを提供するのが僕たちの仕事でもありますね。
今回は団地にお住まいのご利用者さんを訪問。軽やかなステップで向かう後姿が印象的。
―田中さんには不思議な空気感がありますね。若さあふれるそのフレッシュさが何だかご利用者さんの心をくすぐるというか(笑)、つい昔の自分を思い返して「負けられない!」っていう刺激にもなるのかな、ってお話を伺ってて思いました。
あっ、「昔を思い返す」というのはご利用者さんによく言われます(笑)。一緒に頑張ってみようって思ってもらうのと同時に、なんでも相談できる間柄でいたいです。そうすれば自分のダメなところも指摘していただけますし、ご利用者さんが抱える悩みや辛い部分を聞いてあげることもできる。何でもしてあげることはできないけれど、聞くことはいくらだってできますから。そういう風に、人間同士の付き合いが今後も出来ればいいですね。
編集後記
「事業所のなかで1番若いんです」と言う田中さんからも分かるようにこの業界には若い世代の人が本当に少ない! というのが数々の取材をさせていただいている私たちの印象です。
聞けば「辛い、給料が安い」というマスコミからの印象が若者を介護業界、特に在宅ケアから遠ざけている要因だろう…と。田中さんの友人にもそういうイメージを持つ人がほとんどのよう。
そんななか、「辛いこともあるけれどそれはどの仕事も同じ。得ることや嬉しいこともある今の仕事が楽しい!」と話してくださった田中さんの眩しさは忘れられません。今後もっともっと、介護業界を活気づけるための前途有望な若者が増えていってほしい、そう強く思った今回の取材でした。
今回、取材にご協力いただいた田中北斗さんはじめ、『横浜ヘルパーステーション・港南』の職員の皆さまには心からお礼を申し上げます。
「へるぱ!」運営委員会一同