利用者さんと自分流の介護
ご家族の辛さを認めてあげるのもケアのひとつ
介護についての熱い想いを語る田中さんの表情は真剣そのもの。
―ご家族の話がでましたが、田中さんはご家族のケアにもっと力を入れていくべき、と思っていらっしゃるんですよね?
利用者さんの介護ももちろんですが、ご家族をいかにケアできるか、という点が介護職の腕の見せ所だと思っています。私たちは数時間という限られた時間のなかで、利用者さんを少しでも気持ちよく歩けるように、笑顔で過ごせるようにお世話させてもらうわけですが、家族は24時間見続けなければいけない。それに、以前の元気なときや、良いとき悪いとき、全て見てきたうえで今の介護があるわけです。複雑な心境だと思いますよ。だから私たちは、家族の辛さをきちんと理解してあげなければいけないんです。
本棚には大量の資料と参考になる本がぎっしり。
―具体的にどういう風にケアされていますか?
もう、それは「認める」ことですね。「いつもご苦労さまです」「辛いことありませんか?」って積極的に声をかけます。いくらミーティングで「あの方、本当に大変よね」って話してても、本人には分からない。言葉に出して、ご家族の大変さを認めてあげることで、少しでも心の支えになってもらえればいいな、って。ほかに認知症をもつご家族の息抜きの場を提供したりしています。
― 誰かに認めてもらうことで心がふっと楽になったりしますよね。利用者さんの環境を整えるという意味でも、ご家族のケアは大変重要なんだということがよく分かりました。また、利用者さんが思ってることを田中さんにたくされてご家族と話し合うケースもあったりしますか?
山のようにあります。例えば、1日中窓を開けてくれないことで困っている利用者さんがいると、ご家族に1日に2回は開けましょうよ、って話し合いの時間をもつことを大切にしています。また、その時間が私はとても好きですね。何より、ご家族を通して本人をよりよく理解するきっかけにもなります。
自分流の介護こそ地球を救う!?
田中さんが過去に読んだ本の一部。本を通して学ぶことはたくさんある。
―お話を伺っていて、田中さんなりの「介護」というものがすごくストレートに伝わってきました。自分の芯を持っていらっしゃるってとてもステキですね。
それぞれ介護の方法や方針を曲げていたら悩んじゃうと思いますよ。自分がこうだ!と思ったらそれで突き進めばいいんですよ。私は若いスタッフに「天守閣は自分で選んでくれ」とよく言います。お城でいう堀の部分は私が色々なアドバイスをするけれど、天守閣は自分が「こうだ」と思える部分を築けばいい。それは自分で見つけなければいけないんです。5人のスタッフがいたら、5人同じ人はいらない、色々なタイプの職員がいたほうがいいんです。だから天守閣は5人みんな違ってていい、そう思います。
また、私自身、ヘルパーの仕事が大好きなので、これからも現場で働きますよ!(笑)利用者さんとしっかり向き合い、その人らしい生き方ができるサポートを全力でしていきたいと考えています。調子に乗らず、謙虚に進んでいるか、と自分に問いかけながらの毎日です。
―これは、働く人誰にでも当てはまることかもしれません。自分なりの確固たる部分を築くには、それなりの経験も必要になりますね。
そうですね。あとは自信をもつこと。出来ないって思うことは引いても構わないんですよ。力って自信の上に成り立つものだから。あとは自分の経験がないものに関しては、とにかく情報収集する! 私はスタッフに本を読むようにすすめてきました。経験談ベースのものや高齢者の動向を心理学的側面から書いたものなど、本を読むことで得られる情報はいっぱいあります。得た知識を自分の経験と照らし合わせてみるのも、自分流の介護に辿り着くための大事なステップなんじゃないかな。
―「これだ!」という自分流の介護を見つけるには、様々な試行錯誤が必要なんでしょうね。でもそうやって、この仕事に対して真剣に向き合うことで得られる満足感も人一倍大きいものになるでしょう。
人間が元気になるのも、具合が悪くなるのも言葉って大きいですよね? 言葉は、時に助けになる道具にもなれば、人を撃ち殺す武器にもなる。自分がかけた言葉ひとつで利用者さんが穏やかになってくれたら嬉しいし、またその言葉は自分のフィルターを通して出てきたものでなければならないと思っています。「この人のために何ができるんだろう?」と一生懸命考えた言葉が受け入れられるのはやっぱり大きな自信にもつながる。喜びもひとしおだと思いますよ。そうやって、利用者さん、介護する側、それぞれのハッピーが波及していくことこそ、やがては地球を救うんじゃないかな、ってずいぶん大それたことを考えています(笑)。
編集後記
会員の人に配られる会報誌など。「らっこ」の歴史がこれを読めばすぐ分かる。
田中さんは訪問介護に加え障害者サービス、保険外の介護に至るまで、1人で何役もこなすパワフルウーマン。朝は5時に起き、家族5個分のお弁当を作って7時には家を出る生活を続けているそうで、周囲からは「一体いつ休んでいるの?」と言われるほどの忙しさだとか。「辞めようかな、と仲間に相談したこともあったけれど、今なぜかこうやって続けているんだよね」とカラッと笑う田中さんからは、この仕事が好き、というみなぎる闘志が感じられました。仕事のやりがいもさることながら、「らっこがある限り続ける」と語った田中さんの心には、「らっこ」や仲間に対する愛情でいっぱい! その想いをおすそわけしてもらった1日でした。
今回、取材にご協力いただいた田中礼子さんはじめ、ヘルパーステーション「らっこ」の職員の皆さまには心からお礼を申し上げます。
「へるぱ!」運営委員会一同