へるぱ!

今回のヘルパーさん

第71回 神田 理沙さん

北海道常呂郡置戸町にある唯一の訪問介護事業所、置戸町養護老人ホーム『常楽園』でサービス提供責任者として働く神田理沙さんにお話しを伺いました。

様々な仕事を経て介護職へ

3年経ってようやく使える人材になれる、そこからが本当のスタートなのだと思います。

―神田さんが介護職に就くきっかけは?

私は、置戸町出身なのですが、高校卒業後は北見で就職をしまして。そのため、しばらくは北見で生活をしていました。30歳を過ぎ、やはり地元に…と戻ってきて、職探しをしていた際に見つけたのが「常楽園」のお隣にある「緑清園」のパート募集でした。迷わず飛び込み、早11年。置戸町はそもそも仕事の選択肢があまりなくて(苦笑)。ですから、介護への特別な想いがあったわけではなく、仕事を見つけたから応募する! という単純な動機でのスタートでした。

―ちなみに北見ではどんなお仕事を?

最初はバスガイドを5年ほど。顎関節症や腰を痛めてドクターストップがかかり、泣く泣く転職した先は百貨店の販売員。そこは8年ぐらいいました。あとは子供が手離れした際に経理事務を少々。バスガイド含め、接客をずっとしてきたので、色々な方と相対するという今の仕事に抵抗なく入れたのは、その時の経験のお蔭かもしれないですね。

―バスガイド、とは面白い経歴をお持ちですね。先程、介護職に飛び込んだとありましたが、その時の印象って?

不安で一杯でしたが、いざやってみると、『できるかも!?』って。想像していたより抵抗なくできる自分がいて。あとは不安をはねのけるぐらいの『やってやるぞ!』という強い気持ち(笑)。『早く一人前になりたい』という意気込みは、人一倍強かったかもしれません。

―介護職を続けてきて、神田さんが“一人前”と思えたのはいつ頃でしょう?

そうですね…。最初は「緑清園」でパートで1年間、その後正職募集をしていた「常楽園」に移り、今まで続けてきたわけですが、一人前ってなかなか自分では言いきれないかもしれません。まだまだ成長途中です。

―一般的には、仕事は3年続けてみて…とも言いますが、その点どうですか?

それで言えば、「3年経ったからと言って、この仕事に慣れた、と思っちゃいけない。3年経って、ようやく使える人になるんだよ~」と新入社員にもよく話しています。これは先輩から私も言われてきた言葉。最初の3年はご利用者さんを知る期間。この方はどんな人かな、認知症がだいぶ進んできたな、とか色々知って、理解して初めてスタート地点に立てる。そう考えると、介護って厳しい業界ですよね(苦笑)。

サ責になってみて感じたこと

想像以上の作業量の多さに驚きました。メリハリをつけて働くことが大事!

―神田さんがサ責になられたのは、3年前。「常楽園」が役場運営から、社協に変わられたタイミングでのことだそうですが、サ責になってみて心境の変化などは?

突然の辞令でしたので不安も大きく。実際取り組んでみると、作業量も想像以上に多くて驚きました。『これは大変だ…』と。言い方悪いですが、サ責になる前はサ責の方を見て、「いいな~。座って事務作業をしていて楽そうだな」と見ていた節もあったんですよ。今思えば、とんでもない誤解(苦笑)。もしかしたら同じように、私も今思われているかもしれませんが(苦笑)、そこは仕事。割り切って、事務作業をする日というのを月に5日設けて、現場に出る日、そうでない日、とメリハリをつけています。

―事務に集中する5日間は、主にどんな仕事を?

プラン作成やモニタリング、請求チェック、スタッフのスケジュール作成などです。うちのスタッフは、訪問介護に特化しているわけではなく、1日のなかで役割が変化するので、そのスケジュール組みはなかなかに大変です。

―というと?

「常楽園」は養護老人ホームなので、訪問介護事業所に属しているとはいえ、職員は養護・特定・訪問の3つの仕事を兼務しています。つまり●時~●時は特定の職員としての仕事を、●時~●時は訪問に入る、といった1日のなかに3つの役割が組み込まれたスケジュールで皆動いています。なので必然と業務幅は広いと思いますよ。その場、その場を柔軟に立ち回れる人でないと務まらないと思います。

―ちなみに、入居者さんのなかで訪問を利用されている方って、どれぐらいいらっしゃいますか?

現在入居者が80名。そのうち特定の認定を受けている方が30名。その方達を対象に、訪問介護をやらせていただいています。養護老人ホームであれば居室担当がいるのですが、訪問介護は担当制ではないので、スタッフ全員がご利用者さんの所へ出入りする感じですね。

―となると、情報共有は必須ですよね。その際、何か気を付けていることってありますか?

うちはパートが1名で、あとは全員職員。そのため、何かあれば口頭ですぐに伝えてくれます。記録を見ればご利用者さんの状況把握がしっかりできるよう、みんな細かく書いてくれていますし。情報共有は自然とできているんじゃないですかね。何かあればフォローし合える仲なので、私も信頼して色々任せています。あと、あまりがちがちに決めすぎると、後々、お互い嫌な思いをするんじゃないかな、って(苦笑)。だからその辺は臨機応変に、というのが私のスタンスです。

―信頼できる仲間がいる、というのが一番ですね。そういえば、「常楽園」はイベント行事も多いと聞きましたが、それも皆さんで考案を?

はい。毎年の恒例行事もありますが、オリジナルも。2ヶ月ごとに行事担当を決めていて、そのスタッフがイベント内容を色々考えて準備をします。入居者さんに飽きさせない、楽しんでもらえるものを…と毎回試行錯誤していますね。

―例えばどういうイベント&行事がありますか?

「盆踊り大会」、「毎月の誕生会」、「長寿を祝う会」、「そば打ち訪問」…。他には「置中運動会の見学(常楽園の横が置戸中学校)」や「置戸校内マラソン見学」なんていうのもあります。置戸中学校のマラソンコース内にこの施設も入っているので、ランナーが通るのを、みんなでタンバリンやラッパを持って玄関先まで応援しに行きます。「バス旅行」も毎回好評ですね。芝桜を見たり、今年は原生牧場へ行くと言っていたかな。昨年から始めた「夜のスナック」では、職員がおつまみを作り、仮装しておもてなしを(笑)。あとは習字、御詠歌、塗り絵、カラオケと言ったクラブ活動もありますね。

―本当に盛り沢山!地域の方々と交流する機会も多いですね。

はい。置戸町には介護施設は「常楽園」「緑清園」、あと他社がやるグループホームしかありません。なので、認知度も高く、何かあればここへ、という意識が住民のなかに自然とあるんじゃないかなと思います。地域密着型の施設だからこそ、地元の皆さんとの繋がりも強い。保育園の子どもたちがお遊戯を披露してくれたり、地元のカラオケ倶楽部の方達が訪問してくださったり、入居者さんにとってもいい刺激になっていると感じています。

ご利用者さんとの関わり

「してあげる」ではなく「させていただいています」という気持ちで接しています。

―神田さんがこの仕事でやりがいや楽しさを感じる瞬間ってどんな時ですか?

ご利用者さんとお話しをしている時でしょうか。お互いの昔話をしたり、冗談を言い合ったり…。仕事のようで仕事でない、会話そのものを楽しんでいる瞬間は楽しいです。また、何気ない会話がケアに役立つこともありますよね。認知の症状が出始めたご利用者さんがいて、『そう言えば、あの時こんなこと喋っていたから、それが今症状に表れているのかな?』とか、今だけじゃない過去のその方を知るということは、その方に寄り添う、理解するきっかけにもなります。

―なるほど。では、ご利用者さんと接するうえで、心がけていることって何かありますか?

例え認知症であっても、人生の大先輩である方達。尊敬の念を持って接しています。今の私達は何でも機械化されて生活も楽じゃないですか。でもご利用者さんたちは、何でも手作業で暮らしてきた時代。きっと大変なご苦労があったんだろうな、と思うので、「おむつ交換させて悪いね」と言われたりもしますが、むしろこちらが「ごめんなさいね」という気持ちになります。介護職は「してあげる」ではなくて、「させていただいています」が正しいんだろうなと思いますよ。

―それは深い…。神田さんのなかで印象的なご利用者さんっていらっしゃいますか?

「目が覚めた時、『今日も生きててよかった~』って思うんだよ」とおっしゃったご利用者さんがいます。私達の年代にはない“生への喜び”を素直に口に出されていて、ハッとさせられました。目線が変わるというか、本当に勉強になります。その方は寝る時も「今日も元気でいられました。ありがとう」と私達に言ってくださるんですよ。感謝の言葉は有り難く、明日への活力にも。また、認知症の方に「あんたが頼り」と言っていただいたのも嬉しかったです。自分なりに認知症のことを勉強して、よくよく観察して…というのが何らかのかたちでご利用者さんにも伝わったのかな、と思えたので。

―生きている実感、というのは、今の私達が本当はもっと意識しなければいけないことなのかも…と今お話しをうかがってふと思いました。では最後に、今後の展望をお聞かせください。

まだまだ至らない部分も多いので、ここで学びつつ、成長していければいいな、と。あとはどんな時でも、ご利用者さんやスタッフの立場に立って物が考えられる人でありたいです。

編集後記

遠くから玄関先まで、駆け足気味で私達を出迎えてくれた神田さん。周囲が「ぱ~」っと明るくなる、華やぎオーラのある方でした。サバサバしていらっしゃるのに、物腰柔らか。どんなことも柔軟に対応していく能力と、何とかクリアしてしまう“ガッツ”を持ち合わせた女性…という印象です。また神田さんには娘さんが二人。何と! お二人とも介護職を目指して現在勉強中だそうです。まさに、母の背中を見て育つですね。今後が楽しみです。また、大自然に囲まれた『常楽園』は、天井が高く、広々としたゆとりのある空間。木をふんだんに取り入れたログハウスのような雰囲気で、入居者さんもリラックスしながら思い思いの時を過ごされているご様子でした。置戸町の訪問介護事業所は、ここのみということで、オンリーワンであるからこそ、今後どんなふうに展開していくのか気になるところです。ますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。

今回、取材にご協力いただいた神田理沙さんをはじめ、『常楽園』の職員の皆さまには心からお礼を申し上げます。

「へるぱ!」運営委員会一同

事業所紹介

◆置戸町養護老人ホーム 常楽園

〒099-1123
北海道常呂郡置戸町字拓殖51-5
TEL.0157-53-2121
FAX.0157-53-2181

事業所紹介

神田 理沙さん

置戸町社会福祉協議会訪問介護事業所 常楽園支部 サービス提供責任者/介護福祉士

勤務年数:11年/介護歴:11年

趣味

料理

仕事のない週末はのんびりしつつ、料理をして過ごすことが多いです。娘のお弁当があるので、まとめてお惣菜をいっぱい作って冷凍したり、漬物を漬けたりも。大量に作った時は、スタッフにも配っています(笑)。

座右の銘

継続は力なり

自分が納得できるまでやり通す」が昔から私のモットーです。継続することで、見えてくることや分かることがあるので、何事も諦めずに続けることが大切ですね。

 

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