へるぱ!

今回のヘルパーさん

第70回 田中 景子 さん

富山駅より車で10分ほどの場所にある『オークスヘルパーステーション』で管理者(責任者)兼サービス提供責任者である田中景子さんにお話しを伺いました。

介護に興味を持ったきっかけ

大病をした際に助けられた看護師、介護士の方々に憧れたのがそもそもの始まりです。

―田中さんは介護職に就く前、神社やお寺で働かれていたこともあったとお聞きしましたが。

そうなんです。知り合いの神主さんに声をかけられたのをきっかけに、神社で高校3年間アルバイトを。卒業後はそのまま神社に就職しました。子供からお年寄りまで様々な方が神社には来られて。世代の違う方々との交流を通して、学ぶことの多い数年間でした。
体の不自由な方がいらっしゃれば、その方のペースに合わせて動いたり、ここはスロープの方がいいかも…と気付くことも多く、学校では教わらないことや、年齢が違えば、考え方や行動にも大きな違いがあることを知った職場でもありました。その経験は、今の仕事にとても役立っていると思います。

―神社でのお仕事を通して介護職へ興味が?

いえ、その時は全くです。介護に興味が湧いたのは、その後、大病して入院中に看護師さんに励まされたのがきっかけです。その時は、看護師に憧れて。でもさすがに今からなるのは無理か…と思っていたところ、同じ病院内で働く介護士の方に目が行きまして。部屋の掃除や温湿布してくれたり、どこかへ行く時に誘導してくれる、こういう方達に助けられているんだと分かり、介護士ならなれるんじゃないか、と思うようになりました。それが介護に興味が湧いたそもそもの始まりです。でも、介護職に就くまでにはその後、だいぶ遠回りしましたが(苦笑)。

―というと、すぐに介護職に就いたわけでもなく?

そうなんです。やりたいな、と思いながらも、退院後は、生活手段としてすぐに働ける事務職へ。その間、ヘルパー2級の資格は取得したものの、すぐに活かすわけでもなく。その後はお寺に就職…と違った職種に就いている年数がだいぶあります。お寺では、神社同様、色々な方がいらっしゃって、お年寄りの方達との会話を通じて、介護への想いを強めていった感じでしょうか。同時に18歳の時に始めたボーイスカウトでも、年上の方の独特な動きや子供との接し方など、色々自分自身を育ててもらったというのもすごく影響していますね。そして、いざ介護職へと決心した時、やるなら『訪問介護』と決めていました。でも、訪問介護をするためには、デイやグループホームを知っておいた方がいいだろうと思い、デイで半年ほど、グループホームで2年ほど働いてから訪問介護に就いた経緯があります。

―それはだいぶ計画的! 目標を定めて、まずは色々経験を積もうと?

何か分からないことがあると、そこで詰まってしまうじゃないですか。そうなった時、前に進めず、掲げていた目標すら崩れてしまう気がして。だから、色々知っておいてた方が絶対にいいな、って。

―デイやグループホームで働かれてみて、どんな印象を?

デイは、ご利用者さんの本音が分かりづらいですよね。1日来て遊んで帰る感覚に近いので、どうしても生活している時の自然体ではなく、余所行きな態度になりますし。グループホームでは、私たちが思う介護と認知症の方が望む介護に大きな差があることを実感しました。

―それはどういった点での“差”ですか?

例えば、食事であれば、介護側からしたら「今食べてほしい」と思っても、ご利用者さんからしたら「今はお腹一杯だからいらない」となる日もあります。でも「食べてもらわないと困る」わけで、どうにか食べさせようと私達はします。すると、ご利用者さんは、その職員の顔を見れば「怖い」となり、どっかへ行ってしまわれる。時に暴れたり、怒鳴ったり。すると、私達は「またあの人どっか行ってしまった」「怒鳴ってるよ!」ってなるわけです。それが続くと、その方を『認知症でおかしな言動をする人』という印象で職員側が見るようになり、でもご利用者さんからしたら、色々なことを押し付けてくる私達がおかしいわけですよね。ご利用者さんがいなくなったり、暴れたりすることには、必ず理由があることも、働いてみて分かったことです。その理由を見極め対応することが、介護職の勤めでもあるのでしょうが、グループホームという集団のなかで1人1人に寄り添うことはなかなかに難しい。そういう日常の些細なやり取りを通して、やはり訪問だな、と確信を強めていきました。

―なるほど。その後、念願の訪問介護に就かれて、デイやグループホームでの経験が活きたな、と思われることもあったりしましたか?

そうですね。訪問で伺うご利用者さんがデイやショートステイを利用されているケースもあって。訪問の方針とは違った意見を他の事業所の職員さんからいただくこともあります。訪問だけで働いていたら「なんでそんなこと言うのかしら!」と憤慨してしまうようなことも(苦笑)、かつての現場経験があるからこそ、それぞれの立場を理解することもできるので、その点、過去の経験が有り難いなと思います。

―例えば、方針や意見が異なるのはどんな時ですか?

以前、ショートの職員さんから「家で歩いているからと言って、歩いて転んだので、自宅では歩かせないようにしてください!」とお叱りを受けたことがあります。デイやショートでは、ゆっくり歩いているところに職員が1人付くわけにもいきませんし、どうしても手引きしたり、車椅子で移動せざる負えないケースも多くて。もちろん転んでケガをすれば、会社として大問題。そう言われる職員さんの言い分も分かるんですよ。でも、私達訪問としては、ご本人に歩く意思があるなら、筋力が衰えない程度に歩けるよう手助けしたい。だから、ご利用者さんには「転んだら大変だから、ショートやデイでは、向こうの職員さんにお任せしようね」と伝えることにしました。「家にいる時と外に出たときは違っていいのよ」と。何度も話すうちに、ご利用者さんも「分かったよ」と納得してくださって。こうした双方の言い分を鑑みながら、訪問で出来ることを考え、ご利用者さんに理解していただくのも大事なことだと思っています。

オークスヘルパーステーションの立ち上げから4年

分からないなりに奮闘しながら、一歩ずつ前に進んできた感じです。

―デイ、グループホーム、訪問と働かれて、こちら『オークスヘルパーステーション』は田中さんが立ち上げられた、とのことですが、その経緯について教えてください。

数年勤めていた前職の訪問事業所が諸事情でなくなることが決まり、働いていたスタッフは、各々その先の身の振りを考えなければいけなくなりました。私と数名のスタッフで「ご利用者さんをほっとくわけにもいかないし、事業所を立ち上げようか?」なんて話しが出たんですね。自分で立ち上げるのか、どこかの会社に立ち上げてもらうのか、色々思い悩んでいた時、ここの会社『オークス株式会社』の理事の方と知り合いだったことから、ポロッとそのような話をしたら、「会長も社長も介護事業の訪問はやりたいって言ってたよ」となり、そこから話はとんとん拍子に。一週間もしないうちに立ち上げが決まり、4年前『オークスヘルパーステーション』が新設されることとなりました。

―そんなドラマチックな展開があるのですね!

私もびっくりですよ。急展開すぎて、ちょっと待って、困る!!って。心の準備もないまま管理者、責任者となりスタートを切ったもので、当初は必死でした(苦笑)。
『オークス株式会社』は、冠婚葬祭業をメインにしている会社で、「生まれてから死ぬまでお世話のできる会社になりたい」という想いを社長と会長はずっと持っておられたようです。ところが介護は資格がないと出来ないし、人数も集めらずで事業部立ち上げをずっと断念してきた、というのを後から聞き、スタッフ&利用者をそのまま受け入れてくれた会社のためにも、頑張らなければいけないなと気合いは入りましたよね。

―立ち上げということで、ご苦労も多かったのでは?

そうですね。やはりそれなりの苦労は。小さい規模でのスタートなので、1人1人が持つ責任の比重も大きいんですよ。どうしたらいいか分からず奮闘しながら、スタッフ同士で話し合いを繰り返し、一歩ずつ前に進んできた感じです。上に掛け合っても、介護現場を知らない方なので、具体的な解決策が出るわけでもなく…。「どうにかならないのか?」と逆に言われてしまうことも。自分達で考えて行動に移していくという点で、スタッフには無理をさせてしまっているなぁと感じることも多いです。私としては、ヘルパーステーション4年目を迎え、より働きやすい職場環境になるよう、人員の補充もしかり、粘り強く会社と掛け合い、色々な面でこの仕事をもっと理解していただけるよう努力をしていかなければいけないなと感じているところです。

―そこは田中さんにとっても大きな課題であるわけですね。では、管理者、サ責としてスタッフの育成面で、何か心がけていることってありますか?

月一の研修時に、知識や技能的なことをしっかり伝えるようにしています。情報共有の場でもあるのですが、毎回「会話について」「移動について」といったテーマを決め、話し合ったり、介護福祉士の試験問題を解いたり。事例に基づいたケースディスカッションも。私を入れて現在7名のスタッフで30数名のご利用者さんを見ているのですが、全員、責任者になれる資格を持っています。ですから、1人1人が独り立ちできるレベルの人材だという自負もあります。一方で、そこに奢らず、常にご利用者さんの立場にたって考え、行動できるヘルパーであってほしいと思いながら、色々とアドバイスもしたりしていますよ。

―具体的にどんなアドバイスを?

最近だと「答えを求めるような会話にすれば、まず揉め事にはならない」といった話を調度スタッフにしていたところです。それは、「右の首が痛い」と言うご利用者さんに、「右ばっかり向いて寝ているんじゃない?」とヘルパーが言い、「私、右も左も向いて寝てる」と怒られたと言う話からなのですが…。まずは「「いつもどっち向いて寝てるの?」となぜ、問いかけなかったの?」とヘルパーに尋ねました。テレビが右にあるから右だと思い込んで会話をしてしまえば、返答は、「違う」か「そう」の2択になってしまいます。YESかNOの答えを求めるんじゃなくて、もっとご利用者さんから喋りたくなるような問いかけをしましょうよ、と。些細なことですが、こうしたコミュニケーション能力も、介護職にはとても重要なことだと感じています。

ヘルパーの育成と今後について

介護に入らない時間にまで想像力を働かせて、ケアできるスタッフであってほしいと思います。

―田中さんは、現場にも出られているとのことですが、先程の指導という面から、ヘルパーの同行もあったり?

そうですね。うちはベテランヘルパーであっても、新しいご利用者さんの所に必ず私が同行します。初日はサービスの内容を一緒にやりながら確認、次回はスタッフ1人でやってもらい、その状況を見て…、それがヘルパーによって2日で終わることもあれば、1週間ずっと同行することもあれば、という感じです。スタッフとご利用者さんとの相性もありますし、そこの見極めは私自身、とても大事にしているポイントです。

―なるほど。では、田中さんがご利用者さんと接するうえで気を付けていることって何かありますか?

『私達が介護に入らない時間のことも考えてケアをする』ですかね。これは私に限らず、うちのスタッフにも同じ気持ちでいてほしいのですが、訪問が1週間に2回であれば、そのお宅に次行くのは60数時間後なわけです。行かない間もフォローできる、そこまで頭を回せる介護をするべきだと思っています。例えば、3日分の食事を1つの皿に盛るのではなく、3枚の皿に分けて盛り付けておく。そうすれば、毎回新しいお皿で食事ができますよね。ちょっとした気遣いが、より良いサービスにつながると信じています。私達が介護に入らない時間にまで、想像力を働かせてケアに入るよう心がけていますね。

―そうした心がけは、ヘルパーさん達にも伝わって、いい相乗効果が生まれそうですね。

そうですね。「タッパーに付箋でいつ作ったか日付を書いてきたよ~」とか、スタッフ各々が知恵を絞って行動するようにもなり、最近では、そうした部分に仕事の楽しみを見出してもくれているようで、嬉しい限りです。あとは、スタッフの積極的な取り組みから、サービスの質に差が出ないようにも注意を払っています。ご利用者さんから「あのヘルパーさんは、こんなことをやってくれて嬉しかったよ!」と言われれば、すかさず情報共有。するとスタッフ同士、同じレベルでケアに入ることができます。こうしたまめな情報交換によって、ご利用者さんから「新しいヘルパーさんが、自分のことを良く知ってくれていて…」と喜ばれるケースもよくあるんですよ。

―職員同士のチームワークも抜群なんですね。

はい。常に連絡をとりつつ、話し合える仲間なので、そこは誇れる部分です。私がいない時でも、自分で解決して、答えを出して、欲したことを報告してくれるので本当に助かっています。 今後は、質の高いサービス提供はもちろん、ご利用者さんの要望にしっかり応えられるだけの人数に増やしていくという課題にも取り組みつつ、最終的には、ご利用者さん、スタッフ両者から「オークスで良かったね」と言ってもらえるような事業所を目指して、これからもみんなで頑張っていきたいですね。

編集後記

神社にお寺に事務職…面白い経歴を経て、介護職へと辿り着いた田中さん。その経験豊かさから醸し出されるものなのか、人を惹きつける魅力に溢れた方なのだと、話を伺っていて感じました。様々なタイミングが合致し、ヘルパーステーションを立ち上げたものの、ここまでに至る道のりは決して楽ではなかったはずです。それでも、ご利用者さんのこと、スタッフのこと、会社のこと、様々な角度から考えつつ、理解しながら前を向いて進んでいらっしゃる田中さんは、とても芯が強く、真っ直ぐな方なのだと私も学ぶことが多々ありました。富山市で単独事業所はここ以外にないそう。そういう意味でも注目されているオークスヘルパーステーション。ますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。

今回、取材にご協力いただいた田中景子さんをはじめ、『オークスヘルパーステーション』の職員の皆さまには心からお礼を申し上げます。

「へるぱ!」運営委員会一同

事業所紹介

◆オークスヘルパーステーション

〒930-0801
富山県富山市中島4丁目2-14

TEL.076-432-1198
FAX.076-432-1219
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事業所紹介

田中 景子さん

オークスヘルパーステーション 管理者(責任者)/サービス提供責任者/介護福祉士

勤務年数:4年/介護歴:14年

趣味

琴を弾くこと

高校の時のクラブ活動で始めたお琴。とても厳しい先生でみっちり教えられました。でもそのお蔭もあり、神社で務めていた際には、結婚式の生演奏で弾かせていただくことも。今でも家で琴を弾く時間は何も考えずに集中できて、私にとってのリラックスタイムでもあります。

座右の銘

「花を花と見て、花と見ず」

今まで、「出会いは宝」という言葉をずっと大切にしてきたのですが、最近、EXILEのTAKAHIROさんがテレビで、「花を花と見て、花と見ず」という言葉をおっしゃっていて、これだ!と思い、選ばせていただきました。私は、介護で「人それぞれ想いは違うから、それを認めなくちゃいけない」と、常々思っています。人それぞれ見る角度によって捉え方が違うんだ、ということをズバリ言い当てたステキな言葉ですよね。

 

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