今回のヘルパーさん
第68回 津森 紀子 さん

大阪府泉南郡熊取町「JR熊取駅」から徒歩25分ほどの場所にある『永楽福祉会 小規模多機能型居宅介護・永楽のいえ』で管理者をされている津森紀子さんにお話しを伺いました。
介護の道に進んだきっかけ
どの仕事も最初は分からないことだらけ。まずは目の前のことを一生懸命に。
―津森さんが介護に興味を持ったきっかけは?
母が歳の離れた兄弟の介護を前提に、ヘルパー2級の資格を取得すると言い出したのがきっかけです。どの講習がいいかを検討するなかで、知り合いが今私が働く『永楽福祉会』の養成講座受講生募集を教えてくれて。でもその後、事情が二転三転し、母は講座を受けず、私が受講することになりました。
―津森さん自身も介護に興味があった、ということですか?
『永楽福祉会』が家から近くて通いやすいということと、祖母と同居だったので、資格を持っていれば後々役に立つかな、ぐらいの軽い気持ちです。その時は、自分が介護を仕事にすることは全く考えていませんでした。
―では最初は、何となく…からのスタートだったのですね。受講されてみて介護と向き合った印象は?
わりと「すんなり」でした。でも、講義で受けた印象と仕事にした時の感覚は違うでしょうし、排泄介助とか色々なことを抵抗なくできるかな? という風には考えましたね。「すんなり」が「楽しい」になるのか、それとも、「これって大変、難しい」という気持ちになるかは、講義だけでは量りかねる自分がいて…。
―やはりやってみなければ分からない、ということですよね。その後、どういう経緯で介護職に?
資格取得後、そのまま『永楽福祉会』のヘルパー登録ができたので、とりあえず、と言う気持ちで登録しました。そこから数か月経ってからでしょうか。私には3人子供がいるのですが、調度下の子が小学校に入り、仕事を始めようかなと考えていた時期に、ヘルパーステーションから「ヘルパーをしませんか?」というお誘いのお電話があり、「お願いします」と始めたのが最初です。初期は週に2、3回、だんだんと回数が増えていって…という感じです。
―講座では「すんなり」受け入れられたとのこでしたが、実際働かれてみてどうでしたか?
それがこちらも「すんなり」でした。仕事が合わないな、とかは全くなくて。どの仕事も最初は分からないことだらけじゃないですか。だからひたすら一生懸命に、です。
―不安などはなかったのですか?
もちろんありましたよ。特に1回目の訪問では、不安だし、ものすごく緊張していました。でも、その時同行してくださった先輩に「不安はご利用者さんに伝わる。利用者さんにとって、ベテランも新米も同じヘルパーには変わりはないのだから、自信を持っていきなさい」と言われたんです。『あなたが不安にしていたら、ご利用者さんはもっと不安になるよ』と。今でもよく思い返す忘れられない言葉です。
―津森さんを奮い立たせる言葉として今でも強く心に残っている、ということなのでしょうね。では、ヘルパーを続けていくなかで苦労された点って何かありますか?
ヘルパーは、介護技術が全てではなく、コミュニケーション能力や色々な要素が必要だと思います。実は私、元々対人関係が苦手で…(苦笑)。その点はだいぶ苦労しました。ヘルパー研修中、講師の方から「たくさんの引き出しを持ちなさい」というアドバイスをいただいて、それは常に意識していました。野球好きなご利用者さんであれば、朝新聞で勝敗をチェックしたり。そういう情報を常に仕入れて、時と場合に合わせてうまく出していくことも学びました。
サ責から総合施設長へ。そして小規模多機能型居宅介護の管理者も兼任。
学びながら、事業所とともに自分も成長していく気持ちで務めています。
―サ責になられたのはいつですか?
登録ヘルパーで4年半経ったある時のことです。介護福祉士の資格を取得した何人かに声がかかり、私もその一人に。有り難くそのお話を受けて、サ責となりました。
―経験年数があるとはいえ、サ責という立場は今までイチヘルパーだった時とは違うと思いますが、戸惑いなどはありませんでしたか?
もちろん仕事内容が変わった大変さはありましたが、一番辛かったのは、今までヘルパーとして行っていたところに、責任者として行った時、ご利用者さんから「偉い人に来てもらったら悪いわ」と言われたことでしょうか。そういう風に見られることに寂しさみたいなものを覚えましたね。あと、これは今でもですが、人に指示を出すのは難しいです。私よりも長く働かれている大先輩がたくさんいらっしゃるので。
―なるほど。サ責を経てその後は?
サ責を2年ほど務めた後、ヘルパーステーション6年目ぐらいの時に事務職へと異動になりました。職員の給料や会計処理を扱う仕事内容で、それを機に、現場に出ることもほとんどなくなってしまったんですよ。
―現場から事務職という全く仕事内容の異なる異動ということですが、それは素直に受け入れられたのですか?
断れない性格というのもありますが、わりとパッと決断してしまいます。自分で引き受けたからにはきちんとやる! というか、やれる方向に自分の気持ちを持っていく努力をします。後ろ向きに考えるのは嫌なので。その時も、『永楽福祉会』が持つ各事業所の裏方という役目をしっかり果たそう、という気持ちでお仕事をさせていただきました。その後、事務で2、3年経った時に今度は、総合施設長のお話をいただいて。私自身、管理者や責任者の経験もなくでの話だったので、さすがにそれはすぐに受け入れられず、他にもっと適任者がいるのでは、と。
―でも結果、引き受けられたのですよね!? お声がかかるというのは津森さんに人徳があるからなのだろうな、と思いますが。
いえいえ断れないだけです。でも「あなたしかいない」という風に言っていただけたのはとても光栄で、頑張ってみようという気持ちになりました。とはいえ、いざその職務に就くと、知らないことが本当にたくさんあって、自分の未熟さを痛感する日々。何度もプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、きっと神様に「ここで勉強しなさい」と言われているんだろう、と思って、ポジティブに切り替えて今日までやってきました。
―津森さんは総合施設長をされながら、昨年新設された『小規模多機能型居宅介護・永楽のいえ』の管理者でもありますよね?
はい。特養と小規模多機能の公募が町の方からあり、法人としてどちらにも手を挙げ、書類提出、ヒアリングなどの審査を受け、結果両方うちでやらせていただくことに決まりました。私自身、小規模多機能の知識はなかったのですが、ご利用者さんもゼロからのスタートで、色々勉強させていただきながら、事業所と共に自分も成長していく気持ちで兼務させていただいております。
―いざ小規模多機能が開設されて、ご利用者さんが少しずつ増えている今、どんな印象を持たれていますか?
小規模多機能は、ご自宅での生活を継続していきたいと願うご利用者さんにとって、一番臨機応変に対応できるサービスなのではと感じています。訪問や通い、泊まりを組み合わせながら、型にはめることなく臨機応変に対応できるので、ご本人だけでなくご家族の負担も軽減できると思います。最初にご登録いただいたご利用者さんに「こんなサービスを探していた」と言っていただけたのは嬉しかったですね。
―まだまだ始まったばかり。これからどんな事業所にしていきたいですか?
ご利用者さんを増やしていくために、対外的なアプローチが必要だと感じています。これは小規模多機能に限らず『永楽福祉会』全体としても言えることですが、どんな事業所があって、それぞれどんな特徴があるか、もっと近隣の方々に知ってもらわなければいけないですね。先日、この周辺を散歩していた男性がひょっこり、小規模多機能に入ってこられて「ここに入るにはどうしたらいいの?」と尋ねられました。今後のことを考えて参考にしたい、と。介護が必要になるだろうことは、テレビなどで漠然と知っているけれど、ざっくりとしたイメージだけで、細かくは理解されていないんだな、という印象を受けました。きっとそういう方がたくさんいらっしゃると思うので、『永楽福祉会』では「それぞれにこういう特徴があって、こういうことが出来ます」という宣伝活動も今後はしていかなければいけないな、と感じています。
全体をまとめていく立場で思うこと。
より働きやすい環境に整えつつ“人を育てる”ことが今後の課題。
―兼務という立場で、苦労している点などはありますか?
正直、小規模多機能の方を主任はじめスタッフに任せっきりになっているので、自分がもう少し関われるよう調整していかなければ、と思っています。あとは、「ここで働いてよかったな」と思ってもらえるような職場にしていくことも、常日頃の想いであり、課題です。
―そのために何か心がけていることってありますか?
職員の意見を必ず一度は受け止めるようにしています。それぞれ考え方に相違があるものの、どの意見もご利用者さんのことを思って言っている意見に相違ありません。だからまずは耳を傾ける、そして、別の意見があれば双方から聴きます。なるべく公平に、そのうえで法人としてどうしていくべきか相談しています。
―働かれている人を大事にされているのですね。
原点は人。やっぱり“人対人”の仕事なので。ご利用者さんに「いい施設だよね、いつ行ってもワイワイ楽しいよね」と言っていただくためには、働く職員の環境もとても大事。そのための職員育成にも、もっと力を注いでいきたいです。うちは一度外の職場で働いて戻ってくるスタッフも結構おります。戻ってきたい何かがあるのかな、と前向きに捉えていますが、逆に出て行く人を気持ちよく送り出す会社でもあって。いつも顧問が「うちよりいい施設があるんだったら、そっちへ羽ばたきなさい」ってよくおっしゃるのですが、仮に離れていく人は、その人なりの考えもあって移るわけなので、であれば、その人なりのステップアップに繋げてほしい、という気持ちが強くあります。そういう風に人材を捉えているのは、ここならではの魅力なのでは、とも感じています。
―いつでも門戸は開かれている、というのはステキなことですね。最後に介護職に興味を持たれている方や、介護に就いたばかりの方々に何かメッセージはありますか?
ご利用者さんは、自分達より何年も長く人生を歩んでこられた方々ばかり。尊敬の念は、基本の基本です。経験が長くなるほど、その作業に慣れがちですが、全く同じ作業ってないと思うんですね。自分としては同じことを繰り返しているようでも、ご利用者さんにとっては、日々流れる生活の一部であって、時として同じ場面はないんですよ。そこは、常に意識して対応するべきだな、と思います。
―慣れてはダメということですよね?
そうですね。あと、私がいつも気を付けていることなのですが、相手に対して、自分が言ったこと、やったことを「どう受け止めただろう?」と思い返すようにしています。私としては普通に言ったつもりでも、相手はそう感じていないことも。「そんなつもりはなかったのに…」というは、普段の生活でもよくあることですよね!? だから、私が話したこと、伝えたことを相手がどう感じたか、いつも想像を働かせながら、必要があれば、後からフォローもする。そうした気遣いは大事です。 そして、笑顔と挨拶! 今日は体がしんどいな……など、それぞれ事情はあると思いますが、仕事はあくまでも仕事。同じ挨拶をするなら、明るく元気な声で、そうした当たり前のことができる職員であってほしいな、と思います。
編集後記
目の前のことをひたすら一生懸命に取り組まれてきた方なのでしょう。話を聞けば聞くほど、その責務を全うする責任感の強さが感じられ、過去出会ったであろう数々の困難局面にも、きっと柔軟に対応してこられた方なのだろうな、という印象を受けました。「やっぱり原点は人」と津森さんがおっしゃられたように、人を大事にする姿勢があるからこそ、津森さん自身も多くのスタッフから慕われ、そこにまた人が集まり、大きなうねりに繋がっていくようにも感じさせられました。小規模多機能型居宅介護は、可能性を存分に秘めた事業だとも思うので、今後の発展がとても楽しみです。
今回、取材にご協力いただいた津森紀子さんをはじめ、『永楽福祉会 小規模多機能型居宅介護・永楽のいえ』の職員の皆さまには心からお礼を申し上げます。
「へるぱ!」運営委員会一同
事業所紹介
◆社会福祉法人 永楽福祉会
小規模多機能型居宅介護・永楽のいえ
〒590-0451
大阪府泉南郡熊取町野田3丁目2281番地
TEL.072-453-6322
FAX.072-453-8135
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津森 紀子さん
社会福祉法人 永楽福祉会 総合施設長
小規模多機能型居宅介護・永楽のいえ 管理者
勤務年数:14年/介護歴:14年
趣味
寺社巡り
10年前ぐらいに、三十三か所の寺社巡りをしたことがあり、それ以来、各地の寺社へ行くのが趣味に。御朱印帳を持っていて、出かけた際は都度いただいています。今までで一番印象に残っているお寺は、京都の宝筐院。今後行ってみたいのは日光東照宮です。
特技
「ストレス回避の思考力」
昔は思い悩むタイプだったのですが、10年前大病を患った際に、思い悩んでいても体に負担をかけるだけで時間の無駄、と思えるようになりました。元々の悩み気質は今でもありますが、悩みそうな時は、プラス思考に切り替えるようにしています。