へるぱ!

今回のヘルパーさん

第65回 田口 誠 さん

神奈川県秦野市にある小田急線渋沢駅から徒歩で10分ほどの場所にある『介護支援サービス“どんぐり”』で管理者兼サービス提供責任者として働く、田口誠さんにお話しを伺いました。

大学時代に体験した介護職がきっかけ

コントのような日常が自分には新鮮で興味深く、面白いと感じられました。

―田口さんは、大学で専攻されていた学科が「医療福祉マネジメント学科」とお聞きしましたが?

はい。関西の大学で、経営学部でありながら、社会福祉士の資格が取得できるという学科でした。大学の狙いとしては、今後、医療経営が伸びるだろうから、一般企業の就職とは別に、病院の経営に関わる人材輩出も、といった感じだったと思います。自分は、特に福祉に興味があってその学科を選んだわけではなくて。高校の推薦で進学したので、正直選べる範囲内から…という感じですね。

―ではその大学に入ったことで介護に興味を持たれたのですか?

そうですね。自分は高校時代に勉強をあまりしてこなかった後悔から、大学時代は誰よりも意欲的に勉強に取り組む学生だったんです。だから就活も大学2年の時に始めるという変わり者で(笑)。その活動中、ある就活フォーラムのブースで企業の方から「あなたは福祉系の大学にいるのに、なぜ福祉に進まないの?」と質問されたんです。その企業は福祉系ではなかったので、単純に「なぜ?」と聞かれたわけですが、全く答えられない自分がいて「これはやばいぞ」と。まずは明確な回答ができるためにも、実際に福祉の現場で働いてみないと、と思ったんですよね。で、老人ホームでのバイトを始めました。

―老人ホームで初めて福祉の現場に携わり、どんな印象を持ちましたか?

単純に面白いと思いました。例えば、おばあちゃんだと思って話しかけた方がおじいちゃんだったり。歩行介助しながらトイレまで一緒に行ったら、その間パンツが徐々に下がって、トイレについた途端、パンツが全部脱げたり。入浴介助では、お風呂にご利用者さんと一緒に職員が入るのですが、「田口くん、そこ、便が浮いているから気を付けて」って。本当にぷかぷか浮いているんですよ(苦笑)。不謹慎ながら、コントのような日常が自分には新鮮で興味深く、面白いと感じられました。だから人が嫌がる仕事も率先してやったりしていましたね。

―その経験を通して、真剣に介護の方面に進もうと?

そうですね。本気でその道に行こうと決意したのはもう少し先ですけれど、そこでの経験がきっかけの一つではあります。あとは、自分なりに働きながら感じた介護の矛盾点をもっと突き詰めてみたくなり、そこからは、大学での勉強も一般から福祉系にシフトしていきました。

―矛盾とは?

老人ホームで働き始める時、「ここはご利用者さんの家なので、何号室ではなく●丁目の●番と呼ぶんですよ」という解説がありました。でもご利用者さんの体調が悪化したり、胃ろうの常設が必要になると、退所させられるのを見て、そこをご利用者さんが住む家と捉えているのに、その対応は違うんじゃないか、と。

―なるほど。そうした矛盾と向き合いながら、より福祉の勉強に力を入れていったわけですね。そのまま福祉系で就活を?

いや、途中、看護学校に進学することを検討していた時期もあります。というのも、福祉について勉強すればするほど、誰でも出来る仕事なんじゃないかと、興味が薄れてきてしまって…。今はもちろん「誰でもできる仕事だからこそ魅力がある」と思っていますが、当時は薄っぺらく勉強したので、そう思ってしまったんですよね。あと、個人的に『看取り』にこだわっていたので、それってやっぱり医療の分野なのでは?という風にも感じて、ですね。

―看取りにこだわっていたのは、なぜですか?

老人ホームで仲良くさせてもらったおばあちゃんがいて、その方と最後まで一緒にいたいな、と考えた時に「看取り」が、当然のごとくセットに思えたんです。また当時、湯河原の老人ホームに自分の祖母が入所していて、将来出来ることなら、自分が引き取って介護できればいいな、という想いがどこかにあったからですかね。

―でも結果、看護学校には行かずに福祉の仕事に就かれたんですよね?それはどういう経緯で?

看護学校への進学は本気で考えていました。なので、試験合格のための勉強を日々しながら、入学金をバイトで貯めて…と。でもある看護学校のオープンキャンパスで出会った先生にこう言われました。「あなたは人を看取りたいと思っているのよね? 私は医者をしていた時期もあるし、看護師でもあるけれど、福祉ほど人を看取る仕事はないんじゃないかな、って思うのよ」って。医療業界にいた方が、看取りは福祉でもできる、とおっしゃったその言葉に衝撃と感動を覚えて、「あれ?自分が目指していた方面は間違っていたのか?」って(苦笑)。そこからです。やっぱり福祉に関わりたいなと改めて思うようになり、その後、紆余曲折色々ありつつ、湘南老人ホームに就職しました。

湘南老人ホームでの日々

医者が患者を治すように、福祉も人の心を治す力があるんだなって。

―湘南老人ホームで働くなかで、何か新たに感じたことはありましたか?

湘南老人ホームは、基本人を看取るという方針の施設で、自分が目指すべき考えと同じだったこともあり、それをベースにより良い施設にしていく一員になれることにとてもやりがいを感じて働いていました。改善すべき部分も一杯あって、自分的にもすごく勉強できる場だな、と。

―改善すべきこととは、どういうことですか?またそれに対して田口さんが取り組んだことって何かありますか?

そうですねぇ。色々ありますが、特に自分は、ご利用者さんの外出にこだわっていましたね。業務でいくら忙しいと言っても、通院の日は、シフト調整して何とか行けるようにするわけで、同様に外出する時間もとれるんじゃないかなと思ったわけです。それに、ある時、ご利用者さんに『死ぬまでにしたいこと』を聞いてみたことがあって。すると、みんな抱いているのは、さほど大きい望みではないんですよ。「筆記用具を買いに行きたい。教会に行きたい。髪を染めたい…etc」とか。それであれば、実現できると思って、パートの方に協力してもらいながら、早く仕事を終わらせて、夜勤前に教会に一緒に行ってもらったり、とかしてましたね。

―では色々なことに取り組める環境でもあったのですね。

そうですね。でも最初からそういうことを言い出したわけではなく、周囲の様子を見ながら徐々にです(笑)。それを実現させるための業務効率化にまずは力を入れて、実際にできるようになったのは、3年目の時。重複して書いていた記録を1つの書式にまとめてみたり、無駄な時間を少しずつ省いていった感じです。

―実際、望みが叶った時のご利用者さんの反応は?

ある時、寡黙でベッドからあまり出たがらないおばあさんが「教会に行きたい」と突然話してくれたことがありました。急いでご家族や昔の写真を見て通っていた教会を探し出し、クリスマスイブの日に教会にお連れしてミサに参加したんです。すると後日、あまり話さなかった方なのに、「入れ歯をいれたい」「ヨーロッパに行きたい」「髪の毛を染めたい」「お寿司が食べたい」とやけに話してくれるようになりました。さらに、ベッドから出てくる時間も増え、職員に話しかけることも多くなりました。
そんなことを繰り返していくと、ご利用者さんがいきいきとしてくる変化に気づき、ただ、排せつ、入浴、食事介助だけをこなすのが介護ではないと思うようになりました。福祉には人を変える力がある、と実感した瞬間です。医者が患者を治すように、福祉も人の心を治す力があるんだなって。これぞ、この仕事の醍醐味。でも在宅に来て、ヘルパーってそれを感じる機会が少ないのでは?とも思うので、これからは、「介護って楽しい」とヘルパーさんに思ってもらえような機会をもっと増やしていきたいです。あとは、自分がこだわっていた「看取り」。こうした経験を通して、お亡くなりになる最後のことだけを言うのではない。お年寄りの場合は、出会った瞬間からが看取りであり、ケア全てが看取りの延長なんだと思えるようになって、逆に今では「看取り」にこだわらなくなりました。

『介護支援サービス“どんぐり”』で実現していきたいこと

地域の方がオープンに参加できて、介護情報を得られる勉強会を開催していきたいです。

―田口さんが老人ホームから在宅に移られたのはなぜですか?

色々なご利用者さんのご家族とよく会話をするようになったことをきっかけに、まだご自宅で元気だった時の話などを聞きながら、自然と在宅に興味が沸いてきたんです。また今後のことも考えて色々経験しておきたいなという気持ちもあって、在宅に行くことを決めました。

―それで、こちらの介護支援サービス“どんぐり”に転職されたわけですね!?まだ移られて半年ほどですが、初めての在宅、どうですか?

実は最初の数か月、全然現場に出れず、ずっと事務仕事をしていました(苦笑)。というのも、同性介助が基本だったので、男である自分の出番がほとんどなかったんですよ。

―男性のご利用者さんもいるのでは?

もちろん男性の方もいますが、女性のご利用者さんの方が多いです。最初は事務所で、ひたすらPCと向き合い事務作業。シフト表の書式を作ったり、新聞を作ってみたり。

―新聞!?

はい。自分がご利用者さんの所へ行くことができない分、その方にお手紙を書くぐらいの気持ちではじめたものなのですが、「インフルエンザや熱中症に気を付けてください」といった季節の情報に加えて、クロスワード、おすすめの本とか色々です(笑)。

―それは内容盛りだくさんですね。その後、サ責、管理者になられて、今では田口さんも現場に出られているんですよね?

はい。今となってはその現場に出なかった数か月があってよかったと思っています。その間、ケアから帰宅したヘルパーさんから聞いたご利用者さんの様子を細かく記録していたので、現場に出る際、そうした前情報があることでケアがしやすいというのもありました。また、自分自身、アセスメント、情報収集にはすごくこだわっているんですよ。

―というと?

施設にいた立場からすると、ご利用者さんとかつて関わっていたヘルパーさんから入る情報ってすごく重要なんです。出来る限り知りたい。例えば、ヘルパーさんが寄せ書きした色紙が施設内に飾られていたりするのですが、そこからも色々な情報が得られます。そこに「よく歩かれていましたね。でも右目が見えずらいから電信柱によくぶつかってて…」みたいなことが書かれていて、今は全然歩けないけれど、昔はすごく歩けていたんだな、とか。両目が見えていないとばかり思っていたけれど、もしかして、左はまだ見えているのかな?といった職員同士の話題にも繋がったりしました。こうした大事な情報を自分が今取り扱っているのだと思うと、ヘルパーの専門性って、アセスメント能力でもあるな、と感じたりもします。こういうことも、勉強会を通してヘルパーさん達と共有していきたいですね。

―なるほど。ささいな情報もご利用者さんをケアするうえで大事な要素になってくるんですね。では今後、田口さんが目指していきたいことや取り組みたいことなどを教えてください。

まずは、在宅って移動時間が多いのがすごくネックだな、と思っています。言い方が悪いかもしれないですが、施設はご利用者さんが限られた範囲の中にいるため、頻繁に訪問することができます。表現が良くないですが、効率性が重視されているように思うこともあります。一方、在宅は車で20分以上かけて入浴介助に行く。15分かけて排泄介助1回など、施設と在宅は、時間のかけ方が両極端だと感じることもしばしばです。そこで、もう少し良い方法がないものか、とずっと模索しているのですが…。
施設、在宅どちらにも矛盾は色々あるわけで、だからこそ、勉強のし甲斐があるのですが、結果、色々突き詰めていくと、やっぱり家族介護にまさるものはないな、とも思いますね。だからこそ今後は、家族がもっと介護を継続できるような支援をしていく必要があると考えています。

―例えばどんな?

例えば、事業所で行う勉強会もヘルパー向けが多いですが、そこに地域の方も参加できるといいな、と思います。市民の方がオープンに参加できる場を、そして介護情報をシェアする機会をもっと設けていくべきだと思います。老人ホームの社内研修に一般市民も参加できる、とかね。みんなの駆け込み寺のような、地域に求められる事業所が本来あるべき姿だと思うので、今後はそうした活動にも力を入れていきたいです。

編集後記

学生時代に始めたバイトの一つが、かけがえのないライフワークとなった田口さん。老人ホームでのバイト時に体験した「介護のここが面白い!」のエピソードでは、なるほど、こういう見方もあるのか、ととても新鮮な気持ちにさせられました。どこにやりがいや面白さを見出すかは、人それぞれ。だからこそ何でもトライしてみる姿勢が大事なのだと実感します。田口さんの今までを伺うと、興味が沸いたことはとことん突き詰め、「これ!」と決めたことは果敢に取り組んできた方なのでしょう。『若さとは行動力』を地でいく田口さん。これから介護という枠のなかで、何か新たな取り組みをしてくれそう!そんな気配がするので今後に要注目です!

今回、取材にご協力いただいた田口誠さんをはじめ、『介護支援サービス“どんぐり”』の職員の皆さまには心からお礼を申し上げます。

「へるぱ!」運営委員会一同

事業所紹介

◆介護支援サービス“どんぐり”

〒259-1305
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TEL.0463-63-4433
FAX.0463-63-4434
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事業所紹介

田口 誠さん

介護支援サービス“どんぐり”
社会福祉士/介護福祉士
管理者/サービス提供責任者

勤務年数:9か月/介護歴:約5年9か月

趣味

廃墟巡り

廃墟や解体中の家を見かけると、この家で暮らしていた人はどんな人だったのだろう?どんな生活をしていたのかな?と、当時の様子を妄想して、つい見入ってしまいます。そこに置かれた家具一つとっても、ストーリーが見えてくるから好きなんですよ。昔はよく和歌山や兵庫の廃墟巡りにも出かけていました。

座右の銘

「若さとは行動力」

中学時代に本屋で職場体験をした時に、管理職のある方が、学生に向けて発した言葉が「若さとは行動力」でした。若いから行動力があるのではなくて、行動することに若さがある、みたいなことをお話されていたのですが、その時何となく心に残り、常に意識するようになりました。何年も経った今でも色々な節目でこの言葉の大切さを実感します。よく周囲から「行動力があるね」と言っていただけるのも、この言葉が根幹にあるからなんだと思います。

 

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