へるぱ!

季刊へるぱ!インタビュー

山田 真由美(やまだ まゆみ)

株式会社ソーシャルビューティーフォト代表

写真を撮ることが目的じゃない
その人本来の美しさを引き出して今この瞬間を楽しんでもらいたい
美容師プラス介護福祉士の資格を持ち、かつ写真家としても活躍する山田真由美さんは、有料老人ホームや特別養護老人ホームで十数年間介護職員として勤務し退職後、シニア層の撮影を専門とするフォトグラファーに転身、2020年に株式会社ソーシャルビューティーフォトを立ち上げた。
今までに例を見ない介護・美容・写真撮影を組み合わせたサービスを世に出すまでには、さまざまな苦労があったと想像するが、「好きなことを仕事にしているから、いつも楽しいんです」と涼やかに笑う。美容と写真が利用者にもたらすポジティブな化学変化とは?
シニアの方々の魅力を最大限に引き出す撮影の心得についてお聞きした。

ヘルパー2級から美容師、カメラマンの道へ

――介護職だった山田さんが起業に至った経緯を教えてください。

 介護の仕事に就いたのは、2000年代前半のヘルパーブームがきっかけで、当時は軽い気持ちで始めました。最初は特養に勤めて、その後、有料老人ホームに転職しました。転職先は前職より自由な雰囲気で、入居者の方にネイルやお化粧をして差し上げることができたんです。皆さんふだんからお洒落な方が多かったのですが、メイクをするととても喜んでくださって。それが嬉しくて、本格的に美容を学ぼうと決心して、美容専門学校に通い始めました。仕事を続けながらの通学は、体力的にはきつかったのですが、10代20代の若い子たちに交じって学ぶという経験が本当に楽しかったです。

――資格を取った後は?

 当時勤めていた有料老人ホーム内の有志のメンバーと、美容プロジェクトを立ち上げました。レクリエーションの一環として法人内の各施設で、希望する入居者の方たちにメイクアップやネイルを提供し、楽しんでもらうのが目的です。この企画を続けていくうちにリハビリを拒否していた方が意欲的になったり、ふさぎ込んでいた方が明るくなったり、ポジティブな効果があることがわかってきたんです。
 その変化をご本人、そして周りの方に知ってもらうためには、写真を撮って残すのがいいなと思った。そうして写真も併せて撮り始めたら、今度は「遺影写真を撮りたい」とおっしゃる方が増えてきました。「カメラマンをどうやって探したらいいかわからない」「家族にも言いづらいし、施設に入ると頼めない」。そういった声を聞いているうちに、弊社の顧問で、当時、撮影技術を教えてもらっていた写真家の西本和民氏から「とても良い仕事だからしてみたらいい」と背中を押してもらったんです。それで、施設や自宅、どこにでも伺う出張撮影サービスの会社を立ち上げました。

メイクをするとどんな人も笑顔に

――山田さんは介護福祉士やケアマネジャーの資格もお持ちです。介護の資格がある写真家というのはかなり少ないと思いますが、さらにメイクもできて美容師の資格も取得している方となるとほかにはいないのでは?

 起業する際に少し調べたのですが、たぶん私の他にはいないと思います。
 メイクの力って本当にすごいんです。特に女性は「全然興味ないわ」「いまさらメイクなんかしても…」とおっしゃっていても、いざメイクをすると、100%喜びます。「女心」は誰でも持っているのに、ふだん注目されることが少ないから、埋もれてしまっているんですね。「女心」を掘り起こしたくて(笑)、撮影中は「本当におきれいですね」と声をかけ、楽しい時間になるように心がけています。日常的にメイクをされていない方だと、ご本人も周りの方も、驚くほどに変身します。メイクアップすると気分が上向いて、「明日も元気で頑張ろう」という気になる。そういうサービスを提供したいと思っているのです。

撮るのは一瞬
でも写真は一生の宝物

――希望すれば自宅でも出張撮影サービスを利用できるそうですね。

 当初、施設でのニーズが多いかなと予想していましたが、コロナの影響もあって、自宅での撮影を希望するご家族からの依頼が多いです。最近で印象的だったのが、脳腫瘍であと余命半年と宣告された若い女性のご家族からの依頼です。その女性はベッドの上でほとんどの時間を過ごされていたので、ギャッチアップしながらメイクをして撮影したのですが、出来上がった写真を見ると、お元気だったときとはまるで別人でした。病気の進行に伴って、表情もうまくつくれなくなっていたからだと思います。きっとご本人は元気なころの若くてきれいな自分をイメージされているはずだから、亡くなる前にこの写真をお見せしたら、ショックを受けるだろうと思ったんです。期限ギリギリまで修正して、何とか以前のお顔に近づけようと頑張ったのですが、技術の限界を感じました。
 写真って撮るのは一瞬ですけど、手元に一生残ります。まさに今日、今このときが、一番元気できれいな瞬間だから、撮れるときに撮って残してほしいですね。また、自宅での撮影では、必ず家族写真も撮るようにしています。みんながそろって撮れるときってなかなかないですから。

――最後に、人物をきれいに撮るコツがあれば教えてください。

 メイクアップすると、やはりきれいになりますが、眉毛を描くだけでもグッと印象が変わりますので、お勧めします。あとは、好きな人のそばで撮影するということでしょうか。旦那さんやお孫さんなど、ご家族と一緒に撮影すると、パッと気持ちが明るくなって自然とよい表情になるんです。私が撮影する際は、手をつないでもらったり、「もう少しそばに寄ってみてください」とお願いして、ちょっとはにかんだような笑顔を引き出すようにしています(笑)。ぜひ試してみてください。

山田 真由美

株式会社ソーシャルビューティーフォト代表

写真家・介護福祉士・介護支援専門員・美容師・福祉美容師・メイクセラピスト。
高校卒業後、就職、結婚、出産を経て子育てが落ち着いたころにホームヘルパー(当時2級)の資格を取得。その後、介護施設で勤務をしながら美容専門学校に通い美容師免許を取得。高齢者の笑顔を写真で記録に残したいと考え2020年に出張撮影サービスを行う会社を起業。シニア専門の写真家として活躍する傍ら、介護施設のスタッフに美容レクリエーション等を伝える講師として活動する。

 

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