へるぱ!

季刊へるぱ!インタビュー

石田 竜生(いしだ たつき)

作業療法士/ケアマネジャー/大阪よしもと養成所出身のフリーのお笑い芸人/舞台俳優

“その人らしさ”を大事に「笑い」のある介護現場をつくる
介護の現場は安全第一で、ともすると笑いやリラックスを忘れがち。しかし、外出の機会が少なく気分転換がしにくい高齢者にこそ、笑顔を届けたい――。
そこで、作業療法士でありながらお笑い芸人でもある石田竜生さんにインタビュー。トレードマークの「竜バァ」のおだんごヘアで独自のリハビリ体操を始めた途端に、会場が笑い声でいっぱいになるその秘訣を教えていただいた。利用者と距離が近いヘルパーにこそ、石田さんの「笑い」への思いを共有してもらいたい。

『介護×笑い』で介護現場の空気を変える

――石田さんは介護エンターテイナー®として楽しい会話やリハビリ体操を高齢者に届けながら、作業療法士としてデイケアで週2回勤務しています。また、同時にフリーのお笑い芸人でもあるのですね。その経緯を教えてください。

 福祉系の大学を卒業し、卒業後は作業療法士として実家のある富山で働いていました。けれども、小さいころからお笑いが好きだったんですよね。このまま何もせずに夢を終わらせるのも…と考え、一年後にNSC(吉本総合芸能学院)に入学。その後は吉本に所属しながら、大阪のデイケアで働いていました。30歳になると、お笑いも作業療法士もどこか中途半端な気がして、もっと何かできないかと思って、ボランティアで施設を回り、笑いを取り入れたリハビリ体操を始めたんです。二、三年後には「教えてほしい」「一緒にやろう」という仲間が増え、日本介護エンターテイメント協会を設立。仲間と一緒に活動しているうちに、おかげさまでだんだん知られるようになりました。

――石田さんのリハビリ体操は大人気ですね。どうやったらあんなに高齢者の方を笑顔にできるのでしょうか。

 僕がよく言うのは、「全員を楽しませよう」と思わなくていい、ということなんです。全員が楽しいってことは、まずこの世には存在しない。運動が苦手な人もいるし、身体的な理由でできない人もいる。でも、楽しそうにしている人が何人かいれば自然とまわりにも笑顔が広がり、ポジティブな空気になっていきます。そんな場作りをすればいいんじゃないかと思うんですよね。
 壁に体操のしかたのチラシを貼っておくのもいいですよ(参考資料は○○)。よく、手洗い場のところに、手の洗い方のイラストが貼ってあると、なんとなくそれにならってやってみるでしょう?
 自宅の壁にも貼っておくと、ヘルパーさんがいないときにもやる気になってくれるかもしれない。「さあ、やりましょう!」みたいに言わなくても、自然にやれたらいいですよね。

1対1で向き合うヘルパーだからこそ個別ケアを大事に

――ヘルパーはアクティビティを行うデイのスタッフとは違い、1対1で支援しますし、気難しい利用者さんとの関係性に悩む人もいます。

 そうですね。リハビリ職も1対1で関わることが多いので、よくわかります。僕が大事にしているのは、その人の「人となりと歴史を知る」ということ。その人の過去や家族との関係、やりたいことなどをメモしておいて、その人独自の情報をもとに話していくと会話につながっていくんじゃないでしょうか。一般社団法人日本作業療法士協会が出している「興味・関心チェックシート」というのがありますが、それにチェックしていくだけでも、その人のことがよくわかるようになりますよ。
 「昔カメラが趣味だった」とわかれば、そこから話していく。興味があることを話すと、関係性が深くなります。集団レクであっても、一人ひとりに話しかけるようにするなど、個別性を大事にしているつもりです。

――そうですね、ヘルパーこそ個別ケアのために、その方のことをよく知る必要があります。

 阪神タイガースが大好きなら、ペットボトルを持って六甲おろしを歌うとか、監督の写真を貼るとか、そういうことでまったく違ってきます。
 料理にしても、勝手に作るのではなくて、「お母さんが得意だった料理は何ですか?」と聞いて、お母さんの味を再現する。「肉じゃが」と言ったら、「お肉は牛肉ですか? 豚肉ですか?挽肉?汁ダク?」など聞いていく。同じ肉じゃがでも、作り方が違えば、その人の好きな味ではなくなるので。
 もちろん、うまくいかなくて終わってしまうこともあるけれど、今日はそれで終わっても、会話を広げた、会話ができたということで、次回また挑戦すればいい。今回だめだから次回は工夫してやってみる、という積み重ねが、重要ですね。1回2回ではうまくいかない気難しい人とでも、少しずつ近づいていくことができるんじゃないでしょうか。

自分の強みを活かしてどんどん発信する介護職に

――これからの時代は、どんな介護職像が求められていくと思いますか?

 それぞれの強みを活かした介護職ですね。身体介護なら、移乗に関してはだれにも負けない技術を持っているよとか、お風呂のときのコミュニケーションは得意だから、そこを伸ばしていくよとか。自分の強みを活かして仕事の幅を広げ、それを使ってセミナーを開くとか。事業所の勉強会でリーダーになれるかもしれませんしね。そうやって発信していくことも、これからは重要になると思います。自分の視野を広げて前に一歩出れば、世の中が変わっていくし、仲間が増えていく。
 自分が変わるきっかけをつかんでいくことが大事だと思いますね。

石田 竜生

作業療法士/ケアマネジャー/大阪よしもと養成所出身のフリーのお笑い芸人/舞台俳優

「竜バァ」のかつらをかぶり、笑いを取り入れたリハビリ体操やイベントゲスト、講師として高齢者や介護業界人に大人気。日本介護エンターテイメント協会(現:一般社団法人介護エンターテイメント協会)を設立し、介護エンターテイナー®として日本全国を飛び回る。『介護×笑い』に関する取り組みへの注目度は高く、テレビや新聞などマスコミにも数多く登場。

 

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