季刊へるぱ!インタビュー
山国 秀幸(やまくに ひでゆき)

映画プロデューサー/株式会社ワンダーラボラトリー代表取締役
映画を通じて伝えたい介護の仕事の「キラキラ」絵空事ではないリアルな魅力をストレートに表現したい 大森圭という主人公が、介護の世界を舞台に繰り広げる人間模様と仕事への熱い想い。老いや認知症、生と死といった人生の出来事を日常生活の時間の流れの中に描き、好評を博している「ケアニン」シリーズ。
介護職からも根強い人気があるこのシリーズを企画・制作し、脚本も自ら手がけた山国秀幸さんに映画にまつわるさまざまなエピソードを伺った。
介護の魅力を映画の世界観の中で表現し、スポットを当てた「ケアニン」シリーズ
――「ケアニン」シリーズの映画を企画・プロデュースされ、介護の仕事に携わる人々にエールを送り続けていらっしゃる山国さんですが、そもそも介護をテーマに映画を撮ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
僕は現在54歳ですが、営業やエンタメ関係の仕事を経て、37歳のときに映画会社に転職し、その後、自分の会社を立ち上げました。ここでは通常の興行形式だけではなく、公民館や市民会館や学校などで映画を公開するといった「市民上映会」のモデルをつくろうと考えました。
そこで、多くの人が関心を持っている社会的なテーマや課題に焦点を絞り、まずは介護から取り上げてみよう、と思ったのです。
――今まで製作された映画はどんなものがあるのですか。
介護をテーマにした「ケアニン」シリーズのほかに、在宅医療をテーマにした「ピア」シリーズ、そして、地方自治体などと連携してつくった「あしたになれば。」「ガレキとラジオ」「天使のいる図書館」などがあり、どの作品もこの市民上映方式で公開されています。
――「ケアニン」シリーズの構想はどういうところから生まれたのでしょうか。
最初は漫画や小説をモデルにしようとしていました。ところがいろいろ読み進めていくうちに、「介護ってやっぱり大変だよね」とか「認知症になるのは嫌だよね」など、読後感のよいものがないと感じた。それなら、自分たちで話をつくろうと、介護現場の取材からスタートしました。自分の親がいつ介護が必要になるかわからない、自分もそういうことを考えなければいけない年齢になったんだということにだんだん気づくんです。介護は、実は身近な世界であったのだと、そしていつの間にか自分ごとになっていました。
当初、ストーリーをよい方向にもっていくために何らかの創作的要素を加えることを想定していたのですが、実際、現場の人たちに会ってみると、みんなキラキラしていて想像と違っていたんです。「あ、これはすごい世界だ!」、こういう人たちにもっとスポットが当たるように世の中に問わなければならない。映画にすることによって、介護の仕事の本当の魅力とかすごさをストレートに伝えることができると考えが変わりました。
認知症についても、それまでは「認知症になったら人生終わり」と誤解していましたが、取材を通じいろんな方たちから、「それは違う、なぜならば…」という話を聞いて、世の中の見方がまったく変わり、人生観も非常に変わったのです。
介護を知らない人の目線で描くことによって観る人の理解と共感をさらに深める
――「ケアニン」シリーズは観た後にさわやかさ、ほんわかとしたあたたかさが残る作品ですね。
介護に関するドキュメンタリーなどを観ると、当事者の方やその家族を取り上げたり、現場で働いている人の目線から描いていることが多く、リアルなんだけどすごく生々しくて、僕みたいな介護と関係ない世界で生きてきた人間にとって別世界です。遠い世界。むしろ、それを映画の世界で、一般の人の目線で描くことによって、次第に理解を深めていくプロセスが成立する。わかりやすさ、身近な感覚につながるのではないかと考えました。
――また、この映画を通じて、介護の仕事に携わっている人たちの言葉にならない部分を代弁されていると感じました。
自分たちの想いをきちんと言語化している人がまだまだ少なくて、映画によってそれを言語化したことで、「ああ、私が言いたかったことってこういうことだったのよ」という反応が多かった。
役者がちゃんとカッコよくそれを喋ることで、自分たちの中にあるモヤモヤが吐き出された感があったのではないかと思います。
また、介護に向いている人ってどんな人だろうと考えたときに、心底から優しい人だと気づきました。それが画面を通じて滲み出るように、キャラクター設定の際にも留意しました。
――たしかに登場人物のすべての言葉、シーンが絵空事ではない、リアリティーがあると、現場の方たちからも評判でした。
リアルな話や言葉を脚色せずに表現することで、介護の仕事の魅力が多くの人に伝わる。そこを大事にしました。できあがった脚本を多くの現場の方にも読んでいただき、何度も書き直してブラッシュアップ、なおかつ撮影現場にも、現場の方に入ってもらって、しっかりと監修もしていただいています。
――介護業界に慢性的に人が足りていないのは、もしかして介護のそんなキラキラした魅力を訴求しきれていないせいかもしれないですね。
そこは業界だけの責任だけではなくて、マスメディアの影響力も大きいと思っています。ネガティブイメージをゼロに近づけること、それはメディアをつくっているクリエイターたちがもっと取り組むべきことではないでしょうか。介護の仕事をポジティブに捉えて表現するコンテンツを増やし、発信していくことが大切なことだと実感しています。これからもこの「ケアニン」シリーズはずっと続けていきたいと思います。
山国 秀幸
映画プロデューサー/株式会社ワンダーラボラトリー代表取締役