へるぱ!

季刊へるぱ!インタビュー

高瀬 比左子(たかせ ひさこ)

NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表

介護の現場で生き生きと働くそのための対話の「場」
「未来をつくるkaigoカフェ」で悩みに共感しモヤモヤを共有
2012年に「未来をつくるkaigoカフェ」をオープンして以来、ずっと変わらず続けてきた対話の「場」づくり。多忙で対話の機会の少ない介護の現場の悩みやモヤモヤを共有し、共感し合い、あるときは建設的な解決策を話し合う。
現場の人がもっと生き生きと働けるように、開かれた「場」であり続けたい。
かつては訪問介護を経験し、今もカフェを開催しながらケアマネジャーとしても現場に携わる高瀬比左子さんの「今」と「未来」についてお聞きした。

介護に愛着を持ち続けてきたのは訪問介護の仕事が出発点だから…

――高瀬さんは、訪問介護のお仕事が最初なんですね?

 はい。ヘルパーから始めて、サービス提供責任者、そして5年目にはケアマネジャーを取得しました。私が勤めていた会社がちょうど訪問介護を立ち上げたときで、常勤ヘルパーは私一人だけ。来た仕事は何でも引き受けていました。右も左もわからず、大変なことも多かったですが、これから先、どんな未来が開けるか、すごく夢がありました。
 介護の仕事を訪問介護からスタートできたのはラッキーだと思っています。当時は見守りサービスで利用者さんとコーヒー屋さんに行って、一緒にお茶を飲んでお喋りしたり……ゆっくりと向き合う時間がありました。介護の仕事の魅力ややりがいをそのときに十分味わえたからこそ、介護に愛着が持てたと感じています。

――未来をつくるkaigoカフェの発想はそのころ芽生えたのですか?

 いえ、ケアマネになって施設に勤務し始めたころからです。職員たちが生き生きしていないなと感じました。訪問介護に携わっていたときは、利用者さんのことばかり考えていたのですが、施設に勤めたら、スタッフのことに目がいくようになった。生き生きと働いている人を増やすにはどうしたらよいかと。私自身も当時、上司とのコミュニケーションギャップに悩み、一番の当事者としてカフェのような場が必要でした。

だれもが参加できる対話の「場」フラットな開かれた空気が魅力に

――カフェは、とてもフラットな場ですね。参加者も介護の仕事をしている方だけでなく、いろんなジャンルの方が参加されています。

 それこそが私の作りたかった「場」なんです。介護の世界に参加者を限定してしまうと、発想が似通ってきて広がらない。職種を問わずいろんな方に参加していただくことで、話に幅と奥行きが出てくるんですね。

――最初にアクションを起こそうと思ったきっかけは何ですか?

 カフェを立ち上げる前に試行錯誤していて、勉強会に行ってみたりコーチングやファシリテーションの勉強などしていました。そのとき知り合った人から、「やりたいことがあるなら、まず宣言してみたら?」と言われてSNSを通じ、発信してみました。そうしたら賛同者が多く、オープニングイベントで40人もが集まりました。口コミでどんどん広がり、ありがたいことに告知するとすぐ定員で埋まるようになりました。

――ご自身で、カフェを続けてきて、いちばんよかった点は何ですか。

 私は現在もケアマネとして仕事をしていますので、仕事と両立しながら行うことが、よいメリハリになっています。現場での気づきをカフェのテーマにしたり。逆にカフェで得た知識を現場に活かしたりして、両方がいい形で回っています。

――新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、多くのイベントが自粛せざるを得ないなか、活動はどう続けていらっしゃるのですか?

 オンラインカフェという形で継続しています。オンラインのメリットは、今まで参加が難しかった遠方の方が気軽に参加でき、場所を確保する必要もないので開催がスムーズです。月1回の従来のカフェのほか、スピンオフ企画みたいなちょっと小規模なものも開いています。
 一昨年、クラウドファンディングでカフェファシリテーター講座とテキストを制作したときに参加してくれた600人近くの仲間がいて、彼らとオンラインカフェを去年の8月から実験的に始めていましたので、違和感はありませんでした。

――対話力とよく仰っていますね。

 はい。現場の人はいつも時間がなくて、対話がままならない環境にいます。言いたいことも満足に言えない。ですから対話ができる風土をつくっていくことが大事です。対話を通じて、悩んでいるのは自分だけではないと思える点も大きい。介護の仕事って、白黒はっきりとつけられないことも多く、日々のモヤモヤも共有できますし。

素質があって希望を持った若い人そんな逸材が離職しないためには

――離職率が高いといわれている介護業界ですが……。

 やる気があって、希望を抱き介護の世界に入ってくる若い素質のある人が、理想と現実のギャップに破れて去ってしまう、よい人材ほどいなくなる現状。特に訪問の場合、育つ前にすぐに独り立ちさせられ、責任が重くて煮詰まり、辞めてしまう人が多い。人を育成する意識を持った経営者がもっと増えてほしいですね。人を育てる風土が大切だと思います。

――素質のある若い人材が求める働き方を知ることも大事ですね。

 やっぱり介護の仕事が好きな人は、人間関係のよい事業所でできるだけ長く働きたい。雰囲気のよい、家庭的な環境を求めています。どれだけそういう職場をつくれるか。有名な事業所に入って、いくら利用者本位のケアができたとしても、そこでの人間関係や雰囲気が悪かったら辞めてしまう。逆に上昇志向の強い人はあまり介護の仕事に馴染みません。介護は生活と深く密着していますので、自分たちが高齢者になったときに、当事者としてどんな世の中にしたいのかをイメージできる職場。そこから逆算して今できることをやっていきたいですね。

高瀬 比左子

NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表

介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員。大学を卒業後、訪問介護事業所の立ち上げ時に常勤ヘルパーとして勤務したのが介護の仕事との出会い。以後、施設でケアマネジャーとして勤務。介護職やケアに関わる者同士が立場や役職に関係なく、フラットに対話できる場として「未来をつくるkaigoカフェ」をスタート。通常のカフェ開催のほか、小中高への出張カフェ、一般企業や専門学校などでのキャリアアップ勉強会や講演、カフェ型の対話の場をつくる人材を育成する「カフェファシリテーター講座」の開催を通じた地域でのカフェ設立支援も行う。著書に『介護を変える 未来をつくる~カフェを通して見つめる これからの私たちの姿~』(日本医療企画)がある。

 

トップページへ