へるぱ!

季刊へるぱ!インタビュー

杉本 浩司(すぎもと こうじ)

メディカル・ケア・サービス株式会社西日本事業統括部岐阜事業部部長・認知症戦略室副室長

介護は幸せをプレゼントする仕事
その人のやりたいことを実現して「介護が必要になっても大丈夫」と多くの人に伝えたい
モデルの経歴を持ち、“日本一かっこいい介護福祉士”として、 テレビや雑誌など数々のメディアに引っ張りだこの杉本浩司さん。
「介護が必要な人たちにスポットライトを当てたい」と20歳で介護の世界に飛び込み、 まだ措置の時代で閉鎖病棟のようだった当時の現場に絶望するが、 自分が本当にやりたかった自立支援介護に出会った。
そして、さまざまな壁を乗り越え、ご利用者のやりたいことを叶え続け現在に至る。
社内においては自立支援介護を後輩に教え、社外では講演活動を通して全国の介護職に元気を与えている。そんな杉本さんに今後の夢を聞いた。

訪問介護で培った一人ひとりに向き合うケア

――訪問介護を経験されていますね。

 専門学校卒業後、特養に入職したのですが、食事、排泄、寝るをただ繰り返す閉鎖病棟のようなところで。
 辞めようかなと考えていたときに介護保険制度ができ、特養の運営法人が訪問介護を立ち上げることになりました。これで施設から逃げられる! と思って、22歳でサービス提供責任者になったのです。当時は男性のサ責が珍しく、ご利用者に訪問を拒否されたり、「お勝手(台所)に立つな!」と怒られました。
 でも、振り返ると訪問介護の仕事が一番楽しかったですね。一対一で向き合うケアを実現するのは、施設だと難しいこともありますが、在宅ではその人の生活スタイルに合わせるしかないですから。
 忘れられない出会いもあります。90歳のほとんど寝たきりの女性で、僕が1日3回、週に2回、おむつ交換のケアに入っていました。その方が「あなたが一生懸命ケアしてくれて、長生きしたいと思えた」と僕に残して亡くなったのです。今まで、介護が必要な人にスポットライトを当てたいと思ってこの仕事をしてきたけれども、それが全然できていなかったと痛感して。こちらがありがとうと言う立場なのに、何もできなかった自分を腹立たしく感じました。
 関わる全てのご利用者の状態改善をしなくてはいけないと強く思った矢先、国際医療福祉大学大学院教授(当時)の竹内孝仁先生が提唱する自立支援介護に出会いました。先生に入学を勧められ、28歳で社会人大学院に入り、修士課程で2年、博士課程で3年間、必死に学びました。自立支援介護のほかに、ジャーナリズムや医療経営など、取れるコマすべての授業を受け、マネジメントも徹底的に勉強しました。

――自立支援介護の実践というと、具体的には何をなさったのでしょう。

 その人に合わせて水分、栄養をしっかり取っていただく、自然な排泄をする、そして運動をするという基本的なケアです。これを行うことで排便環境が改善し、食欲も出て、全身状態がよくなっていきます。大学院在学中に勤めたデイサービスでは「毎日散歩に行くデイ」と謳って、天候に関係なく毎日外出する取り組みをスタートさせました。大雨や台風の日も、37度を越える真夏日も。ご利用者が「○○に行きたい」と言えば、その目標に向かってトレーニングしました。そうすることで歩けなかったご利用者が歩けるようになり、行きたいところ、やりたいことを話してくれるようになりました。
 介護職はご利用者がやりたいことを実現するためのパートナーです。その人に必要な水分・栄養・運動が入ることで減薬ができ、状態改善をすることでその人が今どうしたいのか、どう生きたいのかを引き出すのがこの仕事の醍醐味と実感しました。

ご利用者6000人の夢を叶えて介護が必要な人のイメージを変えたい

――今はどんな活動をされていますか。

 メディカル・ケア・サービス株式会社で岐阜事業部の部長、さらに認知症戦略室副室長をしています。運営するグループホームでは約1000人のご利用者に対し、自立支援介護を提供しています。今後は弊社のホームに入居されている6000人全員に提供します。
 自立支援介護を実践すれば状態は改善しますが、スタッフ全員が同じ方向を向き、だれもがそれを継続して実践しないと意味がありません。そのため、スタッフが成功体験を積むための方法を常に考えてきました。
 水分、栄養、排泄、血液検査等の数値データを記録しておくこと、そして状態が改善する前と後で、ご利用者の動画を撮ることをスタッフに勧めています。記録があれば、どれだけ改善したかが見てわかりますし、ご利用者の夢を叶えることがスタッフのモチベーションにつながります。

――杉本さんの今後の夢は何ですか。

 介護業界では大手の法人である弊社に入ったのは、より多くの介護が必要な人たちの環境を変えるためです。代表の山本教雄は「認知症を取り巻く、あらゆる社会環境を変革する」と宣言し僕もそのビジョンに共感しました。講演等で介護職のイメージアップを図ろうと発信してきましたが、ここ数年で気づいたのです。介護が必要な人を変えない限り、僕らに対するイメージも変わらないと。
 介護の仕事って主に施設や自宅でしか提供されないので、一般の人からは目に見えにくい。だけど、介護が必要な人のネガティブなイメージはつきやすいです。
 「認知症になっても大丈夫。元の生活を取り戻すことができる」というメッセージを社会に発信するために、弊社のグループホームではご利用者のやりたいことを実現できる環境をつくっています。
 ここで介護職が諦めたら、ご利用者の当たり前の生活は絶対に実現できません。生活は本来みんなバラバラでいいのです。みんなが決まった時間に朝ご飯を食べなくていいし、グループホームに入居しても毎晩近所の小料理屋で晩酌し、アイドルのライブにも行ける。今までの介護の常識はぶっ壊さないと、特にこれからのご利用者は満足しないでしょう。
 介護はもっとクリエイティブになっていい。幸せをプレゼントする仕事なんだということを、後輩たちに伝えていきます。

杉本 浩司

メディカル・ケア・サービス株式会社西日本事業統括部岐阜事業部部長・認知症戦略室副室長

1977年、千葉県生まれ。元ファッションモデル。介護施設の施設長などを経て、2018年9月に入社。これまで培ってきた自立支援介護のノウハウをもとに、誰でも、どの施設でも介護が必要な人の自立支援ができる仕組みづくりに取り組んでいる。社外では“日本一かっこいい介護福祉士”や“認定介護福祉士の唯一の人物モデル”として、年間70回以上の講演やメディア出演、介護職員のユニフォームのプロデュースなど、介護の仕事の魅力を向上させる活動に取り組んでいる。

 

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