へるぱ!

季刊へるぱ!インタビュー

秋本 可愛(あきもと かあい)

株式会社Join for Kaigo代表/KAIGO LEADERS 発起人

「老いることが幸せ」と思える社会を実現するために
未来をよくする仲間を増やしたい
2025年は、どんな年になっているのだろうか。
人口減少、人材不足、介護離職……介護の未来を考えると、ネガティブなワードが並ぶ。 日本最大の「介護に志を持つ若者」のコミュニティ「KAIGO LEADERS」。
「たくさんの人が知恵を出し合えば、介護を取り巻く問題は、きっと解決できる」と信じる一人の大学生、秋本可愛さんの思いから始まった。発起人である秋本さんに、日本社会の抱える介護の未来という課題とそれをどう解決していくべきかについて伺った。

介護の現場で感じた
「違和感」には社会をよくするヒントがある

――「KAIGO LEADERS」の設立の経緯と活動内容について教えてください。

 私がこの活動を始めて7年になります。現在は、超高齢社会を創造的に生きるための人と人をつなぐコミュニティ「KAIGO LEADERS」の運営や、介護・福祉領域の人事の学びの場「KAIGO HR」の運営、法人向けの採用コンサルティングなど、介護にまつわる「人」を応援することを目的に活動しています。
 私が介護の領域に関心を持ったのは、大学時代に創刊した認知症をテーマにしたフリーペーパーがきっかけで、調べていくうちにもっと身近なところで介護の現場を感じてみたいと思うようになりました。大学3年生のときにデイサービスでアルバイトを始めたのですが、そこで、人材不足や家族と介護の問題、本人が思うように生きられない現実など、さまざまな課題を目の当たりにしたのです。
 ある利用者さんが「長生きして、迷惑をかけてごめんね」と言っているのを聞いて、人生の最期が不幸なのはおかしいと感じました。自分にできることはないかと考え、最初は介護に興味のある平成生まれの人を集めて、飲み会を開いたりしていました。それが徐々に大きくなって、今のKAIGO LEADERSの形へと進化してきました。
 私がそうだったように、介護の現場で働く若手の人たちは、社会や職場の状況に対して問題意識や違和感を感じている人が多い。でも、施設や事業所の決められたルール、日々の業務に取り組むことに精いっぱいで、「おかしい」と感じたことをアクションとして起こせないでいるのではないかと思います。違和感は利用者さんの暮らしに直結しているし、実は人が幸せに生きるためのヒントが詰まっているんじゃないかと。
 そこで、現場で働くプレーヤーが行動を起こすきっかけを作りたいと、4年前から、問題意識を持った人たちを応援する「KAIGO MY PROJECT」を始めました。KAIGO MY PROJECTではグループワークを通して3ヵ月間、「自分がなぜその問題意識を持ったのか」を深く掘り下げ、徹底的に自分に向き合います。延べ160人がこのプロジェクトを卒業し、起業したり、地域でプロジェクトを立ち上げたり、現場でリーダーとして活躍しています。

2025年問題を自分事として考えるきっかけに

――超高齢社会となる2025年に向けて私たちは何をしなくてはいけないと思いますか?

 福祉の専門職が社会的に求められているのは、介護技術だけではありません。例えば、超高齢化に備えて持続可能に暮らせる環境づくりとか、「地域包括ケアシステム」や「共生社会」という文脈で、福祉の役割が漠然と語られていますよね。だからといって「さあ福祉の人たち、頑張ってください」と言われても、何を変えていったらよいかわからないし、「地域の人たちと一緒に」と言われても、具体的にどうするのか、学ぶきっかけは少なかったと思います。
 KAIGO LEADERSでは、介護の領域の人だけではなくて、医師、看護職やリハ職、IT企業、シンクタンク、行政、学生など、さまざまな人が一緒に2025年に向け学ぶ場として、勉強会「PRESENT」を開催しています。
 日本社会はまだまだ、老いることがネガティブにとらえられがちな印象があるけど、「老いても幸せ」と感じられる社会をつくれるのは私たち一人ひとりなんだと発信していきたい。
 そして、利用者が幸せに生きられるかどうかは、介護の現場にかかっている。だから、介護にかかわるプレーヤーの力を取り戻していかないといけません。気軽に相談できる場所をつくって、現場の閉塞感や疲弊感を打破し、その人たちがそれぞれの場所でリーダーシップを発揮できる環境を生み出していきたいです。
 KAIGO LEADERSとしては、「2025年までに1万人の介護リーダーのプラットフォームを創ること」を目ざしています。2019年12月には、地域を越えて刺激し合える仲間とつながることができるオンラインコミュニティ「SPACE」も始動しました。そこでは、「人がいないからロボットで代用するっていうのは違和感ない?」「忙しさを理由に異性介助の入浴を良しとする暗黙の風潮って、どう思う?」など、結構ディープな議論をしているグループもあれば、「いま働いている施設ではこういうルールだけど、このままでいいんだろうか」など具体的な相談があったり、内容はいろいろです。
 2025年の問題は、だれか限られた人が解決するんじゃなくて、一人ひとり気づいた人が課題解決に向かうことで乗り越えられると信じています。もっと気軽に相談でき、やりたいと思ったときにすぐに仲間が見つかる世界観を日本全国に広げていきたいと思っています。

秋本 可愛

株式会社Join for Kaigo代表/KAIGO LEADERS 発起人

1990年生まれ。山口県出身。2013年、株式会社Join for Kaigo設立。若者が介護に関心を持つきっかけや、若者が活躍できる環境づくりに注力。2013年に始動した、日本最大級の介護に志を持つ若者のコミュニティ「KAIGO LEADERS」発起人。その取り組みが注目され、厚生労働省の介護人材確保地域戦略会議に有識者として参加。第11回ロハスデザイン大賞2016ヒト部門準大賞受賞。2017年より東京都福祉人材対策推進機構の専門部会委員に就任。第10回若者力大賞受賞。

 

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