へるぱ!

季刊へるぱ!インタビュー

加藤 忠相 (かとう ただすけ)

株式会社あおいけあ代表取締役

利用者の情報を集め「生活」を見ることが介護の専門性 加藤忠相さん率いる神奈川県藤沢市㈱あおいけあの介護は、いまや世界から注目されている。
認知症の利用者をはじめ、多くの利用者の要介護度を軽くし、従業員とともにやりたいことを実践して、いきいきとした生活をサポートする。介護の理想とも言える、あおいけあのやり方を支えてきたのは、スタッフだという。
では、加藤さんはどういうスタッフを求め、育ててきたのか。そして、介護に必要なスキルや専門性は?
どの言葉にもハッとさせられる加藤さんのひと言ひと言に耳を傾けたい。

失敗や挑戦をしなければ介護職の成長はない

――よく「介護職は専門性を持つべき」と言われます。では、介護の専門性とは、何をさすのでしょうか?

 介護の専門性を定義するのは、難しいです。あえて言うのなら、「生活を見る」のが専門ですね。それなのに、「車椅子の使い方がうまい」とか「トランスファーに自信がある」そういうことばかりに特化するのはどうかと思います。その人の持っている情報からその人の生活を見る。どこで生まれて、何を食べて育ち、仕事は何をしてきて、何に誇りを持って生きてきたのか……そして体調などを考慮してその人の暮らし方や健康を考える。十分なアセスメントが大切です。

――利用者の生活を個別に熟知することは非常に難しいし、時間がかかる。だから、介護のためのサンプルやマニュアルを求めがちですね。

 経営者や上層部からして、そうですよね。生活を無視して、事業所のマニュアルに沿って動くのがケアだと思っていて、スタッフにも要求する。その人に合ったケアを考えるのではなく、「マニュアルのとおりにやろう」と言い、失敗とも言えない小さなことも“ヒヤリハット”として報告する。人間は挑戦したり失敗したりしてこそ学ぶものですが、こんな事業所にいると、スタッフは成長していきません。

――あおいけあには、マニュアルはないのですか?

 デイサービスをやっていたころは最低限のマニュアルはありましたよ。事業所に来て、帰宅しないと介護報酬の請求ができませんから、いたしかたない。でも、小規模多機能型居宅介護にはマニュアルはありません。「◯◯さんはたいてい水曜日に来る」のですが、「今日は家にいたい」と言われれば訪問介護に切り替える。夕食は事業所で食べるのか、お弁当にするのか、お惣菜を買って帰るのか。その方の気分次第でいいのです。つまり、そういう「生活」に対応していくことが、専門性です。

――訪問介護は特に1対1のサービスですから、時間の制約はあるものの、加藤さんの言う「その日の生活」に対応するのがヘルパーの仕事。時間内に「こなす」ことが専門性ではないと、肝に銘じないといけないですね。

 そうですね。介護職としての仕事は、そもそも生産性、効率性とは相容れないと思うのです。それなのに、「1時間の間にこれとこれとこれをする」というようなノルマのようなことを要求する経営者に問題があります。いつまで製造業みたいなことをさせるの? と思います。そんな要求をするから、割り切っている人しか残らず、雑でも早い人がほめられ、そういう人たちが派閥を作って、優しい人が辞めてしまう、ということも起こります。

一緒に働きたいのは
“考える”ことができる職員

――では、加藤さんは介護事業所の経営者として、何が重要だと思いますか。

 僕の仕事は、いい人材を集めることだと思っています。

――あおいけあは有名ですから、憧れて応募してくる人がたくさんいて、採用には困らないですね?

 おかげさまで、応募は多いです。キラキラとした理想を掲げて応募してくる方もいます(笑)。でも、そういう方は総じて長続きしないですよ。

――では、どんな人を採用しているのですか?

 決めるのは現場のスタッフです。僕が面接をし、みんなが「よさそうだ」と思うであろう人に、2日間、うちで体験ボランティアをしてもらいます。そして、現場スタッフに「一緒に働きたいかどうか」判断してもらう。「一見よさそうなんですけれど、ちょっと気になる対応をする人で……」などと言うのなら、「じゃ、やめよう」と。そうじゃないと、「社長、なんでこんな人入れちゃったんですか、困ります!」となる。現場が「ちょっと……」と言うのなら、「じゃ、別の人を探すまで、もう少し少ない人数でがんばって」と言いやすいし、現場も納得します。
 僕らが一緒に働きたいのは、「考えることができる職員」です。そして、一人ひとりが自分で考えて、自分で動く。そうした職員が集まってチームワークで働くのが介護の現場ですね。経営者の仕事は、そのような場を整えていくことなのかもしれません。

――介護にはチームワークが不可欠ですね。そのためには、何を共有すればいいでしょうか。

 利用者の生活を見るために考える。その武器が情報であり、情報を共有するのが記録です。記録は大事だと考えています。しかし、介護記録は、「◯◯は問題ないか」というようなADLの情報にチェックをつけていくものが多い。あるいは、文字でその人の健康状態を記録する。そうなると、弱点を探すようになってしまう。「今日は水分を300㏄しか摂れなかった」「食事を半量しか食べられなかった」。医療モデルだけで書くと、「危険がないか」という確認が主になり、その人のやりたいことが見えなくなりがち。
 うちでは文字だけではなく、絵でも記録します。絵だと、「今日、◯◯が生きがいだと言っていました」というような情報を表せ、ではこの人の生きがいをどう叶えるかにつながる。
 あおいけあでは、利用者が駄菓子屋を開いています。これが話題になっていますが、「駄菓子屋をやって認知症の人に活性化を促す」のではありません。駄菓子屋を運営している女性は、もともと駄菓子屋の店主で、そのリソースがあり、その方のやりたいことを実現するための運営なのです。
 利用者さんのひと言からその人の生活や人生を知り、その方が得意なこと、やりたいことにつなげていく。
介護はとてもクリエイティブな仕事だと思います。

加藤 忠相

株式会社あおいけあ代表取締役

1974年生まれ。 東北福祉大学社会福祉学部社会教育学科卒業。 大学卒業後に横浜の特別養護老人ホームに就職し、 介護現場の現実にショックを受け、25歳で株式会社あおいけあを設立。「グループホーム結」「デイサービスいどばた」の運営を開始。 2007年より小規模多機能型居宅介護「おたがいさん」を開始。 数々のTV番組、 メディアであおいけあならではの介護の取り組みを紹介されるほか、 2017年公開映画「ケアニン~あなたでよかった」のモデル事業所に。 2019年2月 、 「アジア太平洋地域の高齢化に影響を与えている最も影響力のある指導者」に選ばれる。

 

トップページへ