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第15回 同一労働同一賃金について       2021/3/11

 「同一労働同一賃金」とは?
 同一企業における、いわゆる正社員と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイマー、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指し、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を禁止すること、と定義してよいと思います。法的な運用として、「パートタイム・有期雇用労働法」が適用され、2020年4月1日より大企業と労働者派遣について、中小企業は2021年4月から施行されます。重要なポイントは以下の3つになります。

1 不合理な待遇差の禁止
 同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などのあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止されます。「同一労働同一賃金ガイドライン」(指針)において、どのような待遇差が不合理に当たるかを例示します。

2 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
 非正規雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」などについて、事業主に説明を求めることができるようになります。事業主は、非正規雇用労働者から求めがあった場合は、説明をしなければなりません。

3 行政による事業主への助言・指導等や 裁判外紛争解決手続(行政ADR) の整備
 都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きを行います。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由に関する説明」についても、行政ADRの対象となります。

 不合理な待遇差の禁止について
 上記の通り、同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止されますが、裁判の際に判断基準となる「均衡待遇」と「均等待遇」が法律に整備されました。
 均衡待遇規定<法第8条>
(不合理な待遇差の禁止)
① 職務内容※、②職務内容・配置の変更の範囲、③その他の事情の内容を考慮して不合理な待遇差を禁止する。
 均等待遇規定<法第9条>
(差別的取扱いの禁止)
① 職務内容※、②職務内容・配置の変更の範囲が同じ場合は、差別的取扱いの禁止。
※職務内容とは、業務の内容+責任の程度をいいます。

 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化について
 ➊ 有期雇用労働者に対する、雇用管理上の措置の内容及び待遇決定に際しての考慮事項に関する説明義務を創設。<法第14条第1項、第2項>
 ➋ パートタイム労働者・有期雇用労働者から求めがあった場合、正社員との間の待遇差の内容・理由等を説明する義務を創設。<法第14条第2項>
 ➌ 説明を求めた労働者に対する不利益取扱い禁止規定を創設。<法第14条第3項>

 不合理な待遇差とは!?短時間労働者・有期雇用労働者の待遇が、正社員との働き方や役割の違いに応じたものとなっているかがポイント!

 待遇差が不合理なものか否か、原則となる考え方と主な具体例は以下の通りです(「同一労働同一賃金ガイドライン」より)。

「基本給について」
労働者の「①能力・経験」、「②業績・成果」、「③勤続年数」に応じて支給する場合は、①、②、③が同一であれば同一の支給をし、違いがあれば違いに応じた支給をする。
【問題となる例】
 能力・経験に応じて基本給を支給している会社において、正社員が有期雇用労働者より多くの経験を有することを理由に、より高い基本給を支給しているが、正社員のこれまでの経験は現在の業務に関連が無い。
【問題とならない例】
 業績・成果に応じて基本給を支給している会社において、所定労働時間が正社員の半分の短時間労働者に対し、その販売実績が正社員の販売目標の半分に達した場合には、正社員が販売目標を達成した場合の半分を支給している。

「賞与(ボーナス)について」
 会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。
【問題となる例】
 正社員には職務内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間労働者・有期雇用労働者には支給していない。

「通勤手当について」
 短時間労働者・有期雇用労働者にも正社員と同一の支給をしなければならない。

「福利厚生施設について」
 正社員と同一の事業所で働く短時間労働者・有期雇用労働者には、正社員と同一の①給食施設、②休憩室、③更衣室の利用を認めなければならない。
 上記以外の待遇も、不合理な待遇差の解消が求められます。労使でそれぞれの事情に応じて、十分な話し合いをしていくことが望まれます。

◆企業・労働者はどんな反応をしている?
 2020年11月6日の閣議に提出された「令和2年度 年次経済財政報告」の第2章にて、同一労働同一賃金の取組みや影響に関する内容がまとめられているので、一部を紹介します。
 待遇の違いについて、「業務の内容等が同じ正社員と比較して納得できない」と回答したパートタイマー・有期雇用労働者の割合は、「賞与」37.0%、「定期的な昇給」26.6%、「退職金」23.3%、「人事評価・考課」12.7%となっています。
 一方、取組みの実施率は、「業務内容の明確化」35.2%、「給与体系の見直し」34.0%、「諸手当の見直し」31.3%、「福利厚生制度の見直し」21.2%、「人事評価の一本化等」17.7%となっています。
 また、企業が課題と感じていることは、「費用がかさむ」30.4%、「取り組むべき内容が不明確」19.5%、「社内慣行や風習を変える事が難しい」18.7%、「効果的な対応策がない、分からない」16.5%、「業務の柔軟な調整」16.1%となっています。

 いかがでしょうか。「同一労働同一賃金」については、2020年10月13日、15日に正規、非正規の労働条件格差をめぐる最高裁判決が出されました(大阪医科薬科大学事件、メトロコマーズ事件、日本郵便事件)。これらは「同一労働同一賃金」への動きの中で必ず確認しておきたいものですが、また、どこかの機会で触れることが出来ればと思います。

 今後は、賞与・退職金も含め各種手当一つひとつについて、どのような目的で支給されるものなのか、目的自体の合理性をしっかりと検討する必要があると思います。また、正社員と非正規雇用労働者の職務内容の違いについても、一度しっかりと整理してみてはいかがでしょうか。

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コラムニスト紹介

吉澤 努

よしざわ社労士・社会福祉士事務所、特定社会保険労務士

プロフィール

社会保険労務士として独立するまでに、介護老人保健施設、通所リハビリ、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等を経営する医療法人に約12年在籍し、法人全体の人事・労務管理に携わる。

平成26年に現事務所を開業。現場を直接見てきたという経験に、労働法・社会保険制度・助成金制度の専門家である社会保険労務士という法的な観点をミックスさせた「実践型介護特化社会保険労務士」として活動中。

<保有資格等>
特定社会保険労務士/社会福祉士/第1種衛生管理者/八王子市社会福祉審議会 高齢者福祉分科会委員/東京都介護労働安定センター 雇用管理アドバイザー/医療福祉接遇マナーインストラクター

著書・出版

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