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第14回 民法改正に伴う人事労務への影響       2020/9/28

 民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)により、使用人の給料に係る短期消滅時効が廃止されることや、労働政策審議会の建議等を踏まえ、労働基準法における賃金請求権の消滅時効期間等を延長するとともに、当分の間の経過措置を講じられることになりました。

1.賃金請求権の消滅時効期間の延長等
・ 賃金請求権の消滅時効について、令和2年(2020年)4月施行の改正民法と同様に5年に延長されました。
・ 消滅時効の起算点が客観的起算点(賃金支払日)であることを明確化
(※)退職手当(5年)、災害補償、年次有給休暇等(2年)の請求権は、現行の消滅時効期間を維持されます。

2.記録の保存期間等の延長
・ 賃金台帳等の記録の保存期間について、賃金請求権の消滅時効期間と同様に5年に延長されました。
・ 割増賃金未払い等に係る付加金の請求期間についても、賃金請求権の消滅時効期間と同様に5年に延長されました。

3.施行期日、経過措置、
・ 施行期日:改正民法の施行の日(令和2年(2020年)4月1日)
・ 経過措置:賃金請求権の消滅時効、賃金台帳等の記録の保存期間、割増賃金未払い等に係る付加金の請求期間は、当分の間は3年。施行日以後に賃金支払日が到来する賃金請求権について、新たな消滅時効期間を適用されます。

 賃金請求権の消滅時効については、労働基準法115条が設けられる際に、その根拠となった民法の短期消滅時効(1年間)では労働者保護に欠ける等の観点から、2年間と定められた経緯があります。しかし、平成29年の民法一部改正により、短期消滅時効が廃止され、一般債権に係る消滅時効については、①債権者が権利を行使できることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき、または②権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間行使しないときに時効によって消滅するとされました。そのため、民法一部改正法の契約上の債権の消滅時効期間とのバランスも踏まえ、賃金等請求権の消滅時効について5年間と改正されることになりました。
 ただし、労働政策審議会労働条件分科会における議論により、賃金請求権について直ちに2年間から5年間と長期間消滅時効期間を定めることは、労使の権利を不安定化するおそれがあり、紛争の早期解決・未然防止という賃金請求権の消滅時効が果たす役割への影響等も踏まえて慎重に検討する必要があると結論付けられたことから、当分の間、労働者名簿等の記録の保存期間に合わせて、3年間の消滅時効期間とする経過措置が加えられたものです。
 賃金請求権の消滅時効期間が2年間から3年間に変更になったことにより、仮に未払い賃金が1人当たり月1万円あった場合、消滅時効期間が2年間であれば24万円だったところ、3年間になると36万円で1.5倍になります。経過措置が終われば、5年間で60万円になり2.5倍になります。可能な限り遡った未払い残業代請求があった場合、会社はこれまでより大きなダメージを受けることも考えられますので、より一層の注意が必要になります。
 検討事項として、「政府は施行後5年を経過した場合において、この法律による改正後の規定について、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすること。」とされており、本改正では、賃金の消滅時効期間を2年から5年に変更する、ただし、経過措置として当分の間は3年とするという建て付けになっているため、施行後5年となる令和7年を目途に、法改正内容の本来の形の通り、労働者名簿の保存期間、付加金の請求を行うことができる期間および賃金(退職手当を除く)の請求権の消滅時効期間は5年間になる可能性があります。

 次は身元保証書を求める際の留意点についてです。
 2020年4月より、「個人保証人の保護の強化」を目的として、極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効とされます(改正民法465条の2)。入社時の身元保証契約は、従業員が会社に損害を与えた場合に本人と連帯してその賠償を行うという連帯保証契約であり、保証人にとっては、従業員が、いつ、どのような責任を負うのかを予測することができないことから根保証契約に当たります。そのため、身元保証契約を締結する際には、賠償の上限(極度額)を定めておかなければなりません。

極度額の定め方
 極度額の定め方については、例えば次のように、これまでの身元保証書に極度額を追加することが考えられます。
 「同人の身元を保証し、同人が貴社に損害を与えた場合、貴社が被った損害を賠償する旨確約します(極度額○○○○円)。」
 なお、実務上は、「極度額をいくらにするか」が問題となります。損害に対するリスクヘッジという観点からは、あまりに低額とすると実効性がなくなりますし、一方であまりに高額にしてしまうと、連帯保証人が躊躇する等で手続きが進まないおそれもあります。
 具体的に金額を明記する(「極度額は1千万円とする。」など)のがベストですが、例えば「極度額は従業員の月給の○○か月分とする。」などと定めることも考えられます。

「身元保証契約」締結の見直しも……
 身元保証を求める会社は多いですが、実質的に形骸化しているケースも多くあります。対応を求められていることを機に、会社にとって身元保証契約を結ぶことが本当に必要であるのか、再検討してみる良い機会なのかもしれません。

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コラムニスト紹介

吉澤 努

よしざわ社労士・社会福祉士事務所、特定社会保険労務士

プロフィール

社会保険労務士として独立するまでに、介護老人保健施設、通所リハビリ、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等を経営する医療法人に約12年在籍し、法人全体の人事・労務管理に携わる。

平成26年に現事務所を開業。現場を直接見てきたという経験に、労働法・社会保険制度・助成金制度の専門家である社会保険労務士という法的な観点をミックスさせた「実践型介護特化社会保険労務士」として活動中。

<保有資格等>
特定社会保険労務士/社会福祉士/第1種衛生管理者/八王子市社会福祉審議会 高齢者福祉分科会委員/東京都介護労働安定センター 雇用管理アドバイザー/医療福祉接遇マナーインストラクター

著書・出版

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