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第12回 外国人労働者の雇用管理について       2020/1/27

 2019年4月より、現下の人手不足の状況に対応するため、介護分野においても、一定の技能と日本語能力を持つ即戦力の人材を受け入れるための在留資格「特定技能」が創設されました。このように外国人労働者が増加していく中で、その働く環境を整備し、よりよくしていくことは各事業所にとって重要な課題となっております。

 そこで、今回のコラムでは外国人労働者を雇用する上での留意点について、2019年3月に改正された「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(以降、外国人雇用管理指針)を中心に、ポイントについて触れてまいりたいと思います。
 このコラムをご覧の読者の方は訪問介護関係者が多いと思います。現段階においては、「技能実習」や「特定技能」について「訪問介護」は適用外となっておりますが、同一法人内で施設系・通所系のサービスを開設している場合も多くあると思うので、是非ご参考にしていただければと思います。

 この外国人雇用管理指針には、事業主が講ずべき必要な措置について、以下の通り示しております。

  1. ① 基本的な考え方
     外国人労働者に活躍していただくためには、事業主が関係法令を遵守し、適切な待遇を確保するとともに、職場環境の整備や仕事・生活上の支援を進めていただくことが重要となります。
     労働関係法令及び社会保険関係法令は国籍に関わらず適用されることから、事業主にはこれらの遵守が求められます。また、外国人が適正な労働条件や安全衛生、労働・社会保険の適用、人事管理や支援の下、在留資格の範囲内で能力を発揮しつつ就労できるよう、さまざまな措置を講じていただく事が求められます。
  2. ② 募集・採用
     募集にあたっては賃金、労働時間など労働条件の明示が必要になります。
     職業紹介事業者等を利用して求人を行う場合、労働者から違約金や補償金を徴収する事業者や海外送出機関からあっせん、取り次ぎを受けないよう、職業安定法上の許可・届出を受けて適正に事業運営している事業者を利用するよう留意してください。求人を申し込むにあたっては、国籍による条件を付すこと、例えば日本人に限る、外国人に限る、などといった求人を出さないよう注意してください。
     採用にあたっては、在留資格上、その業務に従事することが認められる者であることをしっかりと確認してください。また、国籍で差別しない公平な採用選考に努めていただくことが必要です。外国人であることのみを理由に採用面接などへの応募を拒否することは適切ではありません。
  3. ③ 労働条件、安全衛生、労働・社会保険の適用
     労働条件の明示や適正な労働時間の管理、就業規則等の周知など、いずれも日本人と同じく労働基準法等の規定を遵守して取り組んでいただく必要があります。その際、外国人労働者にしっかりと理解してもらえるよう、母国語や平易な日本語を用いた明示や周知に取り組んでいただくことも求められております。賃金・労働時間等の労働条件について、国籍を理由として差別的取扱いをすることは労働基準法上認められておりません。旅券や在留カードは入管法上本人携帯が義務付けられておりますので、事業主が預かり保管しないようご注意ください。

     労働・社会保険について、採用時・離職時の手続きを法令に則って行うとともに、離職時や労災発生時などは、受給について必要な援助を行うことも重要です。

     事業主が新たに外国人を雇用した場合、また、雇用する外国人が離職した場合には、氏名、在留資格、在留期間、国籍、雇入れ(離職)年月日、賃金その他の雇用状況(雇入れ時のみ)、労働者の住所(離職時のみ)等の情報をハローワークに届け出ることが必要です。
     届出は、雇用保険被保険者資格取得(喪失)届出の様式に雇用保険被保険者取得(喪失)届出の様式に記載事項が組み込まれていますので、雇用保険の手続きとあわせて行うことが出来ます。在留カードなどの情報と照らし合わせながら正確な情報を把握し、届け出るようにしてください。届出を怠ったり、虚偽の届出を行った場合には、30万円以下の罰金の対象となります。

     労災保険についても、国籍を問わず、日本で働く外国人労働者にも適用されます。就労資格を持った外国人はもちろん、アルバイトをしている留学生も、就労中に事故にあった場合に適用されます。また、不法就労であっても適用されます。労災保険未加入で労働者が給付金を申請した場合、重大な過失であれば40%、故意であれば100%雇用主に請求されます。
     外国人労働者が受けられる給付の内容については、基本的には、日本人が受けられる給付内容と同じですが、給付中に本国に帰国してしまった場合に注意が必要です。
     日本国内に限られる主な支援制度としては、アフターケア、義肢等舗装用具の支給(車椅子など支給可能な場合もあり)、外科後処置、労災就学等援護費(日本国内の学校に通っている場合)があげられます。
     日本以外から保険給付額を請求する場合の支給額は、支給決定日における外国為替換算率(売りルート)で換算した邦貨額となります。また、海外で治療を受けた場合、治療の内容が妥当なものと認められれば、治療に要した費用が支給されます。
     労働災害等により労働者が死亡または休業した場合には、遅滞なく、「労働者私傷病報告」を所轄労働基準監督署長に提出する必要があります。報告しない場合や虚偽の報告をした場合には、刑事責任が問われることがありますのでご注意ください。
     労働災害防止のため、必要な日本語や基本的な合図等を習得させるよう努めるとともに、事業場内での標識、掲示等について図解等を用いるなど外国人にも理解できる方法で行うことも求められます。
  4. ④ 適切な人事管理
     人事管理に関する運用、例えば、評価・賃金決定や配置などについて、透明性・公平性を確保するなど、多様な人材が適切な待遇の下で能力を発揮しやすい環境の整備を進めていただくことが重要です。
  5. ⑤ 解雇等の予防、再就職の援助
     安易な解雇や雇止めは労働契約法上認められておりません。業務上負傷して休業する場合の解雇制限や妊娠・出産等を理由とした解雇の禁止(男女雇用機会均等法)にも留意してください。

 外国人雇用管理指針に示された点に留意し、また、在留資格や日本語能力など個々の外国人労働者の状況をふまえながら、外国人労働者を受け入れる環境整備や雇用環境の改善を進めることによって、日本人も外国人もともに気持ちよく働ける環境を作り、外国の方の力も借りながら日本の介護業界をよりよい業界にしていただければと思います。

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コラムニスト紹介

吉澤 努

よしざわ社労士・社会福祉士事務所、特定社会保険労務士

プロフィール

社会保険労務士として独立するまでに、介護老人保健施設、通所リハビリ、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等を経営する医療法人に約12年在籍し、法人全体の人事・労務管理に携わる。

平成26年に現事務所を開業。現場を直接見てきたという経験に、労働法・社会保険制度・助成金制度の専門家である社会保険労務士という法的な観点をミックスさせた「実践型介護特化社会保険労務士」として活動中。

<保有資格等>
特定社会保険労務士/社会福祉士/第1種衛生管理者/八王子市社会福祉審議会 高齢者福祉分科会委員/東京都介護労働安定センター 雇用管理アドバイザー/医療福祉接遇マナーインストラクター

著書・出版

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