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第9回 今年10月開始の「新たな処遇改善加算」の仕組みについて確認しておきましょう       2019/4/25

 「今年10月の増税実行のタイミングに合わせて、10年以上の介護福祉士の給与を月8万円程度引き上げる財源を準備する。」そんな言葉が独り歩きして業界を大きく揺るがせている、新たな処遇改善施策。その施策の名称は“特定処遇改善加算”(以降、新加算と表記)となることが公表されました。従来の処遇改善加算とは異なる仕組みをつくり、運用することまでは決定していましたが、2018年12月12日と2019年2月13日に開催された「社会保障審議会介護給付費分科会」において、その全体像・大枠がようやく見えてまいりました。今回は内容の理解と共に、特に事業者として注視すべきポイントをお届けしてまいります。

 先ずは、新加算の大枠のコンセプトについて確認してまいります。

【新加算の対象要件について】
  1. 1)これまでの処遇改善加算と同様のサービス種類を対象とする(=訪問看護・居宅等は対象外)。
  2. 2)「①現行の処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)を取得している」
    「②処遇改善加算の職場環境等要件に関し、職場環境等についての改善の取組を複数行っている」
    「③処遇改善加算に基づく取組について、HPへの掲載などを通じた見える化を行っている」

以上3点を満たしている事業者を対象とする。

 今回の新加算は、「(1)経験・技能のある介護職員に重点化しつつ、介護職員の処遇改善を行う」という当初の趣旨を担保しつつ、「(2)その趣旨を損なわない程度において、その他の職種にも一定程度処遇改善を行う」という特徴を伴っています。(1)を実現するためには「経験・技能のある介護職員を数多く雇用しているサービス・事業所」に多くの額が行き渡るように配分する必要がある訳ですが、その考え方を如何に仕組みの中に反映させることができるか?というのが、論点の1点目。その上で「その他の職種にも一定程度処遇改善を行う」にあたり、どのような基準を設けることで(1)の考え方を担保していくか?というのが論点の2点目にあたります。上記説明を図で表すと、下記のようになるでしょうか。

※第166回社会保障審議会介護給付費分科会資料より抜粋

【新加算の加算率について】

上記の論点1を踏まえて、下記のような加算率が公表されました。

※厚生労働省資料をもとに作成

 「新加算I」を算定するためには、「サービス提供体制強化加算(通所介護など)」「特定事業所加算(訪問介護など)」「日常生活継続支援加算(特養など)」「入居継続支援加算(特定施設など)」のいずれかを取得していることが要件となります。 ただ、それらの加算さえ取得していれば無条件に新加算Ⅰの取得がOK、ということではなく、例えばサービス提供体制強化加算の場合は最も高い区分(加算I イ)のみが新加算Ⅰの対象となることや、特定事業所加算についても介護福祉士の割合など従事者要件のある区分しか認められないことには注意が必要です。 事業者としては今回の加算率を参照しながら、上記に挙げた各種体制加算を現状において取得していない場合の対応策について検討される必要があるのではないでしょうか。

 それでは続いて論点の2点目、事業所内での配分方法についてです。新加算については、「リーダー級の介護職員について、他産業と遜色ない賃金水準を目指し」「経験・技能のある介護職員に重点化しつつ」「介護職員の更なる処遇改善を行うこととし」「その趣旨を損なわない程度において、その他の職種にも一定程度処遇改善を行う」柔軟な運用を認める、という内容が「基本的考え方」として挙げられています。その前提のもと、下記①②③の3種類に職員を定義した上で、配分の考え方については下記の通り、ポイントとして整理がなされた次第です。

  1. 1)「①経験・技能のある介護職員」・・・・勤続年数10年以上の介護福祉士を基本とし、介護福祉士の資格を有することを要件としつつ、「勤続10年」の考え方については、事業所の裁量で設定できることとする。
  2. 2)「②他の介護職員」・・・・「①経験・技能のある介護職員」以外の介護職員。
  3. 3)「③その他の職種」・・・・介護職員以外の全ての職種の職員
【事業所内での配分方法について】
  1. 1)他産業と遜色ない賃金水準を目指し、「①経験・技能のある介護職員」の中に、「月額8万円」の処遇改善となる者又は「改善後の賃金が年収440万円(役職者を除く全産業平均賃金)以上」となる者を設定すること。
  2. 2)「①経験・技能のある介護職員」は、平均の処遇改善額が「②その他の介護職員」の2倍以上とすること。
  3. 3)「③その他の職種」は、平均の処遇改善額が、「②その他の介護職員」の2分の1を上回らない等一定のルールに基づくこと。
    ※ 小規模な事業所で開設したばかりであるなど1)を行うことが困難な場合は、合理的な説明を求める。
    ※ 「①経験・技能のある介護職員」、「②他の介護職員」、「③その他の職種」に配分するに当たり、①②③それぞれの区分の平均の処遇改善額で比較することとし、それぞれの区分内での一人ひとりの処遇改善額は柔軟に設定できるようにする。
    ※ 「③その他の職種」については、今般の更なる処遇改善でリーダー級の介護職員について他産業と遜色ない賃金水準を目指すものであるため、役職者を除く全産業平均賃金(年収440万円)との整合性に留意し、改善後の賃金額がこれを超えない場合に改善を可能とする等一定のルールを検討。

上記を視覚的にイメージすると、下記のような形になるでしょうか(介護給付費分科会資料より抜粋)。

 以上、介護給付費分科会の資料よりポイントを抜粋してお伝えさせていただきました。経営者・幹部の皆様としては「上記内容が実行された場合、社内にどのような影響が出るだろうか?」「それらに対する対策は?」「何より、攻めの戦略としてどのように有効活用していくか?」等々、早め早めに頭を働かせておく&準備を進めていくことが重要だと言えるでしょう。

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コラムニスト紹介

吉澤 努

よしざわ社労士・社会福祉士事務所、特定社会保険労務士

プロフィール

社会保険労務士として独立するまでに、介護老人保健施設、通所リハビリ、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等を経営する医療法人に約12年在籍し、法人全体の人事・労務管理に携わる。

平成26年に現事務所を開業。現場を直接見てきたという経験に、労働法・社会保険制度・助成金制度の専門家である社会保険労務士という法的な観点をミックスさせた「実践型介護特化社会保険労務士」として活動中。

<保有資格等>
特定社会保険労務士/社会福祉士/第1種衛生管理者/八王子市社会福祉審議会 高齢者福祉分科会委員/東京都介護労働安定センター 雇用管理アドバイザー/医療福祉接遇マナーインストラクター

著書・出版

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