へるぱ!

障害者だからこそ出来ること

最終回 奇跡の人 ヘレン・ケラー

最終回となる今回のコラムでは、私の理想介護者であり、福祉に携わる人なら一度は読んでいるだろうと思われるヘレン・ケラーについてお話したいと思います。実は私自身、彼女の伝記は読んでおらず、今は読めなくなってしまったために全く残念な思いです。

しかし、学生時代に文部省選定映画「奇跡の人」を見て印象に残っていることは、障害者であるヘレン・ケラーが盲ろう者として暴れまわり、アニー・サリバン先生と毎日取っ組み合いの喧嘩をし、ヘレン・ケラーに何度叩かれても根気強く先生が、ヘレン・ケラーをやさしく労りながら教育指導していたということです。正直初めて、人間眼だけでなく耳や口も不自由な障害者がいることをこの映画を見て初めて知り、当時は、世の中には可愛そうな人がいるのだな…という程度の理解でした。上京してから「奇跡の人」が舞台で上演されていることも知りましたが、一度も見たことはありません。舞台観賞に誘われても「映画で見たので」と全て理解しているつもりでいました。

舞台での名場面は、井戸端でサリバン先生がポンプをこぎ、出てきた水を手に触らせて、ヘレン・ケラーに『世の中にある物には全て名前がある」と感じさせる場面であり、『ヘレン・ケラーが目覚める』という演出がクライマックスシーンなのだと聞きました。井戸場での出来事は、サリバン先生がヘレンの元へ来てから間もない頃の出来事の一部で、それ以外の事はあまり演じられていないそうです。その前後については、自叙伝「わたしの住む世界」に詳しく書かれていますので、お読み下さい。

ヘレン・ケラーは生まれつきの障害者ではなく、生後1歳7ヶ月の時、熱病に侵されて全てを失うのです。一般的に赤ちゃんは、3ヶ月までに触覚で物を覚え、10ヶ月以内に視覚・聴覚が発達、言語は遅れて発達するため、自分の思いが伝わらないもどかしさを夜泣きや怒りで身体を動かして表現するのだそうです。ヘレン・ケラーは、そのようなもどかしさから野獣のように暴れて、母親を困らせ、親が医師の助けを求めたことは私にも十分理解できます。結果、彼女はアニー・サリバン先生と出会うことで『言葉』という神秘の扉が開かれ、これまでの暗い牢獄から開放され救われたのです。ヘレン・ケラーはこう言っています。「私は奇跡の人ではありません。私がやり遂げたことは、どんな人でも感覚を集中させ、根気強く取り組めば、もっと多くのことを達成できるのです。障害を補うために変化できる脳があることこそ、人間の奇跡です。これらは、教育の方法で脳を開化させ、当たり前に接していれば普通人として成り立つのです。」(「わたしの住む世界」より)

また、脳科学者の権威、ハーバード大学・パスカルレオーネ博士も「脳内部に視覚野・聴覚野・言語野があるが、指で触れることで視覚、聴覚、言語でその働きをしている。心の眼、心の耳、触覚で理解して脳で見ている。このように人間が豊かに作られていることが奇跡である。」と語っています。物を見る手は、自分にとって視覚と聴覚とを合わせたものであり、指で触って心でまとめているそうです。

井戸から出る水に触れ、初めて物に名前があることをアニー・サリバン先生から教わり、言葉を獲得したヘレン。眼も見えず、声も聞こえず、口で話せなくても、下を向いてはいけない。真直ぐ前を見て、人の為に尽くすことだけを考えて一生を終えたヘレン・ケラーは、私にとって「偉大な人」であります。そして今世の中は、アニー・サリバン先生のような介護者を多く求めているのではないでしょうか。障害がなければ一生理解し得なかった人でありますが、障害を持っていても介護者になれるという勇気を頂きました。

ありがとう!「Helen Keller」

ヘレン・ケラーは戦前・戦後を通して3度来日し、昭和24年施行の身体障害者福祉法成立に大きく貢献して下さいました。

毎月お届けしてきた介護コラム「障害者だからこそ出来ること」は、今回で最終回となります。何かの折にまた皆さまとお会いできれば嬉しいです。それではまた会う日まで。

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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