へるぱ!

障害者だからこそ出来ること

第48回 共有財産

聴覚障害のハンディを超えて作曲活動をしていた人を、テレビメディアが大きく取り上げ「現代のベートーベン」だと放映しました。本人に音楽の専門的知識は全くなく、他人が作曲した曲目を自作したと毎回発表していたそうです。実際に作曲していた人は健常者で、良心が咎めて「作曲者は私だ!」と記者会見をし、これまでの嘘をばらし共犯者となりました。以前、障害者宛て郵便物料金割引の適用を受けるため、証明証を偽造していて問題となった会社があリました。同じ“障害”を利用した事件ではありますが、前者と後者とでは、目的がまったく違うと私は思っています。

障害を確認するために手帳の提出義務があり、「障害者手帳を見せて下さい」と求められますが、障害を負った当初は、言われるたびにとても不愉快な気持ちになったことを覚えています。自分から好き好んで障害を持ったわけではないのですから、障害者適用を受けるために、わざわざ障害の偽造をしたりはしません。心に傷を負い、辛い思いからやっと前向きに立ち直り、外出が出来るまでに回復したにも関わらず、「間違いなく障害者ですね」と駄目押しをされるような、寂しい思いを何度も味わったため、今でも当時のことを思い出すのは嫌です。前者の事件はご本人が障害を持っており、かつては私と同じ気持ちを味わったであろうはずなのに…、本当は耳が聞こえていたのではないでしょうか?また後者は、障害者宛て郵便料金割引を適用させて利益をあげる商法であり、不幸にして障害を持った人々が、どれほど切ない思いをしているかも理解せず、メディアも悪乗りした感が否めず、何より利益を求める商行為の疑いもあり許せない事件でした。耳が聞えなくても音楽鑑賞ができ、作曲活動もできる体験を知り得たなら、一人占めにしないで披露して頂き、障害者皆さんと共有していただきたかったです。なぜなら、それが生きて行く勇気と力につながったと思うからです。

私は中途視覚障害者になって、一度は人生のどん底に陥った時期もありましたが、それまでの後ろ向きな考えから脱却し、生きて行くための日常生活手段を自ら体験、そしてその実例を同行援護従業者(視覚障害者ガイドヘルパー)養成研修で披露し、中途失明された同士に少しでもお役に立てればと考え、講師を引き受けております。ご利用者さんを訪問されている介護福祉士の方から、最近は糖尿病で眼の不自由な方が多くなり、ご苦労されていることを聞きました。サービスを受ける利用者の立場に立って、私の個人的体験ですので、すべての視覚障害者に当てはまるとは限らない事例もありますが、その情報を一人占めすることなく、皆さんとの共有財産にしたいと考えております。

これまで何不自由なく生活してきたのに、突然光を失った私の気持ちは、誰にお話ししても、同情こそあれ…、いやきっと解ってくれている人もいると信じています。また、日々生活する中で、一つ一つは私の小さな事例にすぎませんが、同士の方達は生きて行くための知恵を少しでも多く欲しいはずです。テレビ、ラジオなどの報道メディアが飛びつくような大ニュースではありませんが、日常生活で生きて行くために「私にとってはとても大事」。そして、その「大事」な財産を語り続けることは与えられた役目でもあり、今後もご披露していく次第です。

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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