へるぱ!

障害者だからこそ出来ること

第46回 集団介護

年末には恒例の「NHK紅白歌合戦」がありますね。私は数年前に一度だけ観戦に出かけたことがあります。これを観覧するためには応募ハガキを出し、公正に抽選されて選ばれなければなりません。そして、当たるために応募ハガキを10枚以上出した憶えがあります。

1枚の当選ハガキで入場者は2名。妻はあいにく仕事の都合で休暇が取れませんでしたので、私一人で出かける事になりました。確か、当時の放送開始時間は午後9時でしたが、少し早い午後5時に家を出ました。JR山手線の原宿駅で下車し、NHKホールへと向かいました。駅前からいくらか歩を進めると、途中長い列を目にしましたが、何処かの新装開店か何かで、買物客が並んでいるのだと思い「ご苦労様」と少々冷たい視線を送りながらNHKホール近くまでやって来ました。すると、ハンドスピーカーを持った係りの人が、大声で「4列に並んでください!!」と叫んでおり、『はて…、この列の最後尾はどこなのかな』と辿っていくと、なんとこれまで見てきた新装開店の列がまさにそれで、最後尾に着くと原宿駅が目の前だったのです。

一度その列に入ると、あとは自分の自由は無くなり、ただ時間が来るまでその位置を確保し、ハンドマイクを持つ誘導者に従うしかありません。一人で並んでいる者は、少なくとも2時間以上は列を離れられない状態になるのです。入場時間が近づくと、ハンドマイクの係員が「列から離れないで下さい!列を崩さないで真直ぐ進んで下さい!」の連呼です。それでも、やっとの思いで玄関ホールまで辿り着くと、皆良い席を取るために我先に走る、走る。間髪入れず、ハンドマイクから「走らないでゆっくり進んで下さい!!」の連呼、連呼。例え目が見えていても、自分の意思では一歩たりとも進めません。一人の誘導者がまるでガイドヘルパー的役目をして、怪我のないように集団を介護している状態です。

着席までも色々あり、紅白観戦でホッとしたのも束の間、最後の曲「ホタルの光」が終わり、その余韻に浸りたいところではありますが、ホールから駅へ着くまでの時間がこれまた大変でした。帰りも行きと同じ駅であるJR原宿駅に、と思いましたが、またしても集団介護状態で、人、人、人のダンゴ状態となり、1歩進むのもやっとで、交通整理の警官が特殊車両上から拡声器フル音量にして、「進め!止まれ!右に!左へ!!」と誘導介助であります。こうなると目が見えない、見える、の問題ではなく、自分の意思や自由は全くありません。結局、私は人の流れに逆らう事も出来ず、川の流れのように自然に身を任せて進むことに。思いがけなく明治神宮境内に入り、初詣を。後ろから投げられるお賽銭が頭に当たる体験もし、なされるがまま、地下鉄表参道駅に押し出されたのでした。

昨年、渋谷駅前のスクランブル交差点で「DJポリス」の呼びかけ・誘導が、爽やかで歩行者との一体感も見事だと話題になりましたが、やはり一方的でなく、介護する人もされる人も共に理解し会えるガイドヘルパー誘導が大切であるのだと、当時を懐かしく思い出しました。

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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