へるぱ!

障害者だからこそ出来ること

第45回 便利って挑戦なの

先日、妻がスマホを買い求めました。家族全員が今使っている携帯電話すら使いこなせないというのに、テレビCMで「息子よりお先にスッ、スッと」という先端を行くスマートフォンの宣伝文句に釣られて買い求めてきたのです。一番の購入の狙いは、韓国ドラマにはまり込んでいる妻が、好きな俳優のファンクラブへ入会し、仲間とメール等のやりとりをするためだったようなのです。案の定、購入と同時にファンクラブへ入会し、会員番号とパスワードをメモして帰って来たのでした。そして、こちらの予想通り「メールが出来ない!」と使い方を求められたので、「取扱使用書を見せろ」と私もすかさず応対。ところが最近のスマホには、取扱説明書というかさばる物は一切存在しないのですね。マニュアルは自分でウェブ上で検索して見るのが通例になっているらしいのです。

私がパソコンを使い始めたのは、Windows95の時代からで、日本語ソフト販売で徹夜して買い求める若者に「なんの大売出しか!?」と訪ね、説明されてもなんだかよく理解出来ないまま列の最後尾に並び、笑い話にされたという記憶があります。あれから20年近く経過し、パソコンは改良に改良を重ねられ、誠に便利なツールとなり、OSはWindows8となりました。また、携帯電話も、ポケットベルで話も出来ない呼び出しだけのものから始まり、当初は本体も今の何倍も大きくて重く、現在の超薄型軽量が信じられないくらいです。パソコンも携帯電話も新発売されるたびにハード面、ソフト面ともに進化して、最近の世界新商品の発表では「腕時計型、メガネ型」などと、トータル的な使い勝手は良く分かりませんが、何処まで進化するのかは天井知らずです。我が家では、2010年デスクトップパソコンを新しく買い求めました。好きで買い換えしたのではなくて、旧タイプでは周辺機器との互換性が無く使えないからです。OSはWindows7で、今まで使いこなしていた画面とは大幅に変わってしまい、すべてが一から覚え直しです。次々と新製品を生み出す業界の方々は、その新しい仕様に挑戦するために苦労しているユーザーがいることを忘れないでいただきたいと思います。妻より少しばかり知識はありますが、所詮Windows95から始めた時代遅れの経験者ですから、なかなか太刀打ちはできません。文字が小さいし、画面に少し触れるだけで予想しないスピードで次の画面に展開していきます。昔、スピード違反交通標語に「狭い日本、そんなに急いで何処へ行く」というのがありましたが、自分の意思に反して、どんどん展開する画面に向かって、「私はそんなに急いでいません!!」と訴えかける始末です。 これは銀行のATM機械でも同じです。振込み相手の名前の打ちこみも、少しずれたキーに指が触れた為、誤った文字でどんどん進む。当世のIT慣れした若者の間ではATMの画面レスポンス(response time)が「どこどこ銀行は遅い」といったクレームも付くそうですから、しょうがないのでしょうか?「銀行さん、せめて全銀行の初期メニュー画面をなぜ統一しないの?」と本当に不思議です。

昔の便利物として「風呂敷、折りたたみ傘、携帯ポケットバック」など「都合が良くて、うまく役に立つもの」がありましたが、今はスピードがない物は便利物ではないらしい。これ以上の便利さを求め続けることが本当に役に立つのか…!「わたくしは、そんなに急いでいません。ゆとりを下さい、この悲鳴、聞えますか!?」

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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