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今なら語れる「障害を越えて」

第38回 山は高いほど谷は深い (3)      2021/9/17

 健康に生活するなかで、手、足、目、耳などに障害を持ち、生涯期待していたことが満足に出来ないことがあります。その山となる希望が大きいほど、谷は深いものです。そして自分以外の誰か、健康だった子供達や兄弟姉妹が視覚障害者や身体障害者になった場合、将来に大きな期待をかけていた分だけ夢破れた時のダメージは、自分が障害者になる時と同じ位の衝撃を受けます。期待した高い山の分だけ、谷は深いのです。そして、深い谷を登るにはなかなかに時間を要します。

 25歳の長女は初恋の男性と結婚しました。娘夫婦は美男美女、自分で言うのも恥ずかしいですが妻に似て長女は美人でしたので、誕生する孫に期待をかけていました。それも「大きな山」です。結婚して1年後、夫の親が経営している岐阜の会社を引き継ぐため、東京から岐阜に転居していきました。その3年後には長女から懐妊の連絡を受けました。盆と正月を一度に迎えたような「高い山」の喜びがあったのですが、それも束の間、余命3ヶ月の「子宮ガン」宣告の連絡をも受けたのです。これまで病気知らずの自慢の娘にまさか、まさかの出来事でした。

 余命より1ヶ月伸びたものの、希望の山は見事に崩れました。その後、深い谷に落ちた妻の感情はいまだ回復していません。死後5年になりますが、長女が使用していた子供部屋には、飾り付けされた写真、人気俳優のポスタ-、修学旅行のお土産、彼からの誕生日プレゼントなどがいまだ片付けられずそのままとなっています。

 今日は引き出しやタンスを片付けると言いながら妻は部屋に入るのですが、午前中コトリとも音がしません。何をしているのか心配になりドアを開けると、目を赤くして娘が残した手紙、日記、成績表などを読み返しています。何度も早く忘れるようにと話してきましたが、あれから4年経ちますが深い谷から回復していません。早く諦めるようすすめていた当の本人も同じ傷をもつ同士です。気持ちは理解できるのでお互い時間をかけていくことにしました。

 見た目には何も障害がないと思われていても、同じ心配事を持っている方はたくさんいらっしゃるでしょう。もし同じ深い谷の方に巡り会いましたら、共通の話題を話しながら、お互い抱えた深い谷を浅くし合うことができるかもしれません。相手の方もきっとそのお相手を探していることでしょう。

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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