へるぱ!

今なら語れる「障害を越えて」

第37回 山は高いほど谷は深い (2)      2021/7/9

 健康なうちに、身体の動くところはいい状態を維持できるように、と最近リハビリ運動も兼ねて機械体操に出かけています。利用者は60代から80代が大半で、最近出会った一番の長老は95歳の方。自分より何倍も元気で驚きました。

 もう一つ驚いたことは、元気な高齢者ほど障害者に優しくないのです。高齢者は若者を見ると、「今どきの若者は常識を知らない」と二言目には口にしますが、元気な高齢者ほど障害者を大切にしないことにも驚きました。自分が元気だから、足が痛い、腰が痛い、手が上がらないといった辛さを理解できないからでしょうか。その逆、自分の足腰などに障害が出てくると、自分一人で出来ない人を見るとすぐに手助けをしたくなる、という話も聞きました。自分も出来ないから、弱者の気持ちもよく分かるのでしょう。

 先日95歳の大先輩と休憩時間にお話をする機会がありました。先輩いわく、今は時間をかければ何とか自分一人で行動出来ているようです。ある時、何かを探している人を見て「何かお探しですか?」と声をかけたら、相手が大変喜んでいたそうです。「人間は一人では生きていけない動物だ」と知ったと。たったその一言が、おおげさに言えば「生きていく力になった」とその95歳の大先輩は話して下さいました。

 視覚障害者である私に置き換えれば、「白い杖とやさしい理解者」が元気の源であり、生きる力の栄養です。いただく声かけは、温かい心の中で育てられた花束となり、その一言が「生きていく力」になります。

 先日リハビリへ向かうための送迎者に乗り込んだ時のこと、その日はすでに何人か事前に乗っている人がいました。私が乗ると、障害を持たない高齢者からは声かけがありません。でも、足腰に障害がある高齢者からは「おはよう、いい天気だね」とお声がけいただきました。その一言が「今日も生きるぞ」と私の生きる力になっています。

 深い谷を浅くするための訓練を時々思い出して下さい。

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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