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今なら語れる「障害を越えて」

第36回 山は高いほど谷は深い (1)      2021/6/10

 今年の夏には、昨年2020年8月に予定されていた「パラリンピック」が日本で開催予定です(日本では障害者スポーツをパラスポ-ツと呼名を変更することが決定)。新型コロナウイルス感染拡大防止のために延期されたパラリンピックですが、オリンピックに比べてあまり知られていないのが残念です。

 パラリンピック選手として出場決定した選手達はそれぞれ障害を克服し、試合当日に合わせて体調を整えてきています。開催の延期は、健常者とは比べものにならないほどのハンデを背負って参加してきている障害者に大きな影響を与えたに違いありません。

 例えば、あるパラリンピック選手は障害者となる前は「医者いらず」で、一度も病院に通院したことがないと自慢している健康体だったかもしれません。それがある日突然、交通事故によるもらい事故で障害者になったのだとしたら…。これまで自分一人で行動できていたことが、事故以後は視覚障害者となりガイドヘルパーによる同行援護が必要となったり、視覚障害者ではなくても車椅子生活が当たり前になるかもしれません。これまで健康体で生活をしていた人ほど、心の衝撃は大きいものです。私で言えば、定年半年前に突然光を失い、「なぜ私に、私だけに」と嘆き、定年後の自由な時間を活用する計画も一瞬にして奪われて夢破れた、あの時の衝撃と同じなのだと思います。かつて健康だった時の生活が懐かしく、心を奮い立たせ、立ち上がるまでには相当の時間と努力が必要でした。

 「山は高いほど谷は深い」です。

 これまで趣味だった運動を今度はパラスポ-ツに変え、それを生きる原動力にし、深い谷のような落ちこみから、立ち上がってきた選手達のことを考えると私も嬉しくなります。早く立ち上がるためには自分一人では難しく、大きな支えが必要です。友達、先輩、福祉関連のヘルパーさん達、そして「生きるための情報」が大きな力になります。

 健康体の時ほど障害者情報というのは気づけないものです。本人が障害者にならないと思っているから、自ら積極的に情報を得ようともしません。どこに行けば情報が得られるかも知らない人の方が多いでしょう。私ももちろん、健常者の時は障害者が何を考えているか、何の情報を求めているのか気にも留めませんでした。

 人間は若いからとか、高齢者だからとか関係なく「人生100年時代」、健康で老いたいものです。若くて健康な体力はいつまでも保持はできません。保持できない機能は、障害機能となりうるので、心の備えを忘れないことが谷を浅くする大切なことだと経験から学びました。

 ぜひとも、今年開催のパラリンピックの応援に出かけてみて下さい。障害者選手の皆さんが生き生きとスポーツを楽しむ光景から、生きる力を逆にもらっていることに気づくかもしれません。

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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