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今なら語れる「障害を越えて」

第31回 やさしい理解者を…(3)      2020/7/31

 通院している新宿からの帰り道、電車の隣に座っていた中年女性に声をかけられました。「あなたはこの地下鉄の職員ですか?」と聞かれ、私は「なぜそう思うのですか?」と逆に聞き返せば、「乗車する時、乗り換え先の駅で、職員の方がホームで出迎え親切な行動を取られていたからです」との返答が。

 私は視覚障害者なので、ホームからの転倒防止のため、また乗車前など目的地までの駅構内をエスコートしていただくよう事前にお願いしていること、自宅に帰る時は、駅構内のタクシー乗り場まで案内をお願いしていることなどをお話ししました。

 「そのサービスは有料ですか?無料ですか?」と聞かれ、「到着まですべて無料です」と答えれば、女性は大変驚いているようでした。これまで障害者を見かけることがあっても、気に止めたことはなかったのでしょう。真剣に問いかける女性が「やさしい理解者」になる可能性を信じ、彼女が下車するまでの間、「やさしい理解者」について色々お話しをすることにしました。

 その時乗車していた大江戸線の地下鉄は、最近完成したばかりの最新型車両と駅施設です。駅ホームと車両の高さが同じなため、車椅子を押してそのまま乗車が可能です。以前は、数名の駅員がホームまで車椅子を担いで階段を上り下りし、電車到着時には、段差を繋いで乗せていました。どれだけ便利になったかを私は彼女に力説します。大江戸線の全車両には多数の優先席があり、車両内は車椅子やベビーカーの留め置きもでき、安全ストッパーが設置されています。車両内の吊り輪は白で統一され、見やすい気配りが。そうした様々な配慮が「やさしい理解者」なのです、と説明しました。

 まだまだ解説は続きます。「最近の事故に、盲導犬の視覚障害者がホームから転落した事故があり、一見盲導犬と同伴だから安全だと思われがちですが、万が一危険を感じたら「やさしい理解者」になって一声かけてあげてください」とも。

 来年のパラリンピックを前にホームガードの設置が進んでいますが、旧車両の乗車口数や駅ホームの強度問題により設置が遅れている現状についても語り、また音がする改札や、交差点で「カッコウ、ピヨピヨ」と鳴いて安全に渡れる交差点の設置などについてもお話ししました。

 彼女が下車する駅が近くなっても熱心に質問されるため、私にも語りに熱が入ってしまい、もう少しで彼女を乗り過ごさせるところでした。「やさしい理解者」を多くするためには、求めるだけでなく自らが努力すべきだと再認識した彼女との出会いでした。

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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