へるぱ!

今なら語れる「障害を越えて」

第28回 シー 静かに…       2020/2/27

 同行援護従業者養成研修の実技指導内に、利用者の身体に触れずに誘導する、ヘルパー体験があります。これは、ガイドヘルパー役の受講生の声かけだけで、視覚障害者(利用者)役の受講生を10メートル先のゴールまで誘導するものです。

 当初、ガイドヘルパー役の受講生は、利用者役の受講生に「そのまま前に10歩、左に45度曲がり、3歩小さく前に歩いて…」と細かく指図を出します。ですが上手に誘導できません。そこで先生からこう解説がありました。「ガイドヘルパーが想定する利用者の足幅と、実際の足幅は違います。また『45度左へ』という指示は、利用者には理解しづらいものです。そうした理由から利用者はゴールできず、途中の障害物にもぶつかってしまうのです」と。

 さらに、先生から正しい誘導方法として、「ガイドヘルパー役が利用者役に、『自分の声の聞える方向に付いて来て』と事前に伝え、『こっちです。こっちです』と利用者役の目の前で声かけするだけでゴールできます」と解説がありました。視覚障害者は音に敏感なので、離れていても声の方向に進むことができます。45度曲がる時には、ガイドヘルパーは曲がり角に沿って、声かけの間隔を小さくしてあげれば、より上手に誘導ができます。これまでのコラムでも書いたように、光を失った視覚障害者は音を頼りにしている、ということをぜひとも思い出してください。

 今年2020年は、東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。 パラリンピックには、健常者と同じ競技種目があります。競技記録において健常者と大差はあるものの、競技内容には差がないことにまずは驚かされます。また、選手たちの反射神経の早さや機敏な行動は、もしかしたら健常者に勝るのでは、と思うことも。今年のパラリンピックでも一瞬の音に反応して戦う競技選手に驚き、感動することでしょう。

 視覚障害者選手にとっての弱点は、サポートする誘導者の声が、観客席からの大きな声援によってかき消されてしまうことです。審判員の開始合図があれば、応援のかけ声は、「シー、静かに…」で統一していただきたいものです。また、視覚障害者への声援に限らず、最近感じることがあります。例えば、大相撲の取組や仕切前、「ひいき力士の名前を叫びかけ、チャッ、チャッの手調子」の応援が、もしかしたらあの大きな力士の集中力にも一瞬影響しているのではないか、と私は心配してしまうのです。

 パラリンピック応援には、日本人としてのマナーを守り、応援の掛け声を「シー、静かに…」の配慮でお願いします。

一覧へ戻る

コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

トップページへ