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今なら語れる「障害を越えて」

第25回 中途視覚障害者としての体験談 (2)

 もし中途視覚障害者になったら、今まで健常者として普通に暮らしていたことを振り返ることが大切です。落ち込んで家の中に閉じこもるのではなく、電車に乗って通勤していたことなど、過去の日常が、この先の生活で大きな宝となるでしょう。

 視覚を失うと、これまでの生活とは全く異なり、未経験の世界に入り込む感覚を味わいます。その現実にまず驚くのですが、そんな時に役立つのは、通勤経路やその時歩いた風景、曲がり角、駅構内での改札口などです。こうした風景を忘れないためにも、出来るだけ同じ道を歩いて記憶を積み重ねていくことが大切です。積み重ねた経験は、これまで通り自分の財産となります。

 見えない恐怖や、経験の積み重ねに苦労もたくさんありますが、記憶を辿り歩いてみると、意外にも発見があります。「ここに信号があったな」、「あと何メートル歩けば曲がり角があったはず」といった具合に、自然に過去の記憶が思い返されることも多いのです。この記憶を大切に保管しながら、仕舞い込まず、世の中にドンドン出歩き、変化する街の風景に触れ、日々更新していきましょう。行動が止まれば視野が狭まり、ますます自分の世界に引きこもりがちになるので注意が必要です。

 見えないこと以外、今までの生活に違いはない、ということがあなたの自信にもつながるはずです。何もかも失ったわけではありません。これまでの記憶があればある程、これから先の未来に望みを持つことができます。

 まず手始めに、台所、居間、寝室など部屋の位置などを確認して、記憶が正しいかチェックしてみてください。すると、余分なものを大切に保管していたなんてことにも気付きます。最小限の品物で生活はできますので、これを機に、思い切って整理整頓をして新しい世界の記憶を作ってみるのも一興です。

 とはいえ、急いで片付けることはありません。自分の身の回りのことは、時間をかけて確実に記憶に留めておけるよう進めていくことが肝心です。

 さて、次回は外回りについてお話しします。

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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