へるぱ!

今なら語れる「障害を越えて」

第17回 アイコンタクト「目で合図」

視覚障害者になって毎日不自由な生活をしていますが、なかでも一番困るのが「目で合図する」ことです。諺にある「目は口ほどに物を言う」が実行できないのです。

例えば、「あの人は『KY』」で会議が終わらず長々と続くことがあります。『KY』とは、「その場の空気(K)が読(Y)めない人」を指し、一時期流行語になりました。会議は話し合いだけでなく、会議の進行状態や場の雰囲気を目で把握する必要があります。

現在、私は研修生に講義をしていますが、研修生が見えないために話がうまく噛み合わず、皆さんにご迷惑をおかけしているかもしれないと思う時があります。また、その場の空気が察知できず、不愉快な思いをさせていないか心配になる時もあります。私がまさにKYになっているかもしれず、自分自身に腹が立つことがしばしばです。

野球のピッチャー・キャッチャー間においては、次に投げるボールの種類をキャッチャーが指で合図して決めます。しかし、投げる直前に相手のスクイズをピッチャーが見破ったら、キャッチャーへの合図は目で行うことが多く、これは非常に便利なアイコンタクトの活用ケースだと思います。

「目は口ほどに物を言う」にぴったりなエピソードの一例としては、山田洋次監督の人気シリーズ「男はつらいよ」の映画があります。主人公の寅さん(渥美清)が毎回マドンナ役に恋をして、ラストシーンで必ず失恋して終わる、というストーリーで第49作まで続きました。何作目かは忘れましたが、当時アイドル歌手だった沢田研二がマドンナに恋をする青年役でゲスト出演した際、彼女をくどくための恋の手解きを寅さんがするシーンがありました。寅さん役の渥美清は、四角い顔で目が小さく細いのが特徴の男優です。寅さんいわく、「恋人を口説くには、口ではなく、相手の目を見て『あなたを愛しています』と目で合図し伝えるのが本当の恋である」と指導します。面白いのは、寅さんの目が細く小さいがゆえに、寅さん自身の気持ちが相手に伝わることなくいつも失恋してしまう、ということです。

また、最近では、電車やバスの車内でスマホばかり見て、周りの空気が読めずに怒りっぽい乗客が多くなっていると聞きます。最近起こる事件においてもしかり。その場の空気が読めずに起こるトラブルが実に多いそう。スマホと向き合うだけでその場の空気が読めなければ、突発的な言い争いのケンカの原因にもなり得る、ということなのです。皆さんには、神が与えてくれた健康な目を大切にしてもらい、ぜひとも有効活用してほしいです。

最近私は、ガイドヘルパーさんに不愉快な思いをさせないために、ヘルパーさんの声の抑揚で空気を読み、想いを汲み取ることができるようになりました。

ガイドヘルパーさん、本日も宜しくお願い致します!

一覧へ戻る

コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

トップページへ