へるぱ!

今なら語れる「障害を越えて」

第8回 ガイドヘルパーは解説者であってほしい

 ブラジル・リオでのパラリンピックが終わり、少し熱がさめた後も、サッカーアジア予選、プロ野球日本シリーズ、大相撲などスポーツの話題は尽きません。

 それぞれの実況放送を聴いていると、ラジオもテレビも、解説者本人の熱量がすごく「行け、そこだ、その調子、ダメだ! ダメだ!」と、解説者なのか観客・応援団なのか、区別できない放送が最近増えてきたように感じます。特に解説者本人が最近まで競技者として活躍していた場合に多く、どうやら解説以前に競技者になってしまっているように思われます。視覚障害者の私は、テレビよりラジオを聴くことが多いのですが、競技の様子が分からないまま「行け、そこだ、今だ、今だ」と連呼されても、試合の進行状況を想像するのは容易ではありません。

 一方、マラソンはラジオ放送を楽しく聴くことができる競技の1つです。ゴールまで長時間にわたって競う競技なので、時間に余裕があり、解説者が競技者と一緒になって興奮してもあまり気にならないからです。特に嬉しいのは、マラソンコースの風景を解説してくれることです。テレビでは視聴者も同じ画面を視ているので細かい説明は必要ありませんが、ラジオでは、風景だけでなく、コース沿いにある大小様々な建物の解説が入ることで、場所によっては私の記憶が甦ることもあります。かつて見知った場所の景色を想像しながら、コースを実感して競技を楽しむことができるのはマラソン放送の良さです。

 先日、あるベテランキャスターが「テレビはカメラを向けられている景色について説明する必要がない。視ている人がカメラを通して確認できるので相づちもいらない。一方、ラジオだと解説者には見えても、聴いている人には見えないので、それを怠ると放送に空間ができてしまう。あまり空間が長いと、放送事故に思われることもある。見えているテレビと、見えていないラジオとでは、そこには大きな違いがある」とラジオ放送の難しさを語っていました。音に頼っている私にはよく理解できる話でした。

 もしもこれを読まれたあなたが解説者になったなら、自分中心の解説をせず、色々な人が見たり、聴いたりしていることを忘れずに、一緒に楽しめる解説をお願いします。

 また、ガイドヘルパーとしての仕事中は、介護者が見えているものは、視覚障害者には見えていません。変化する季節風景の解説や相づちはぜひとも声を出してお願いします。ただ頭を振って返答すること、「あれ、これ」といった指示語での説明は絶対禁止です。この解説者テクニックは「同行援護(ガイドヘルパー)」における視覚障害者介護にきっと役立つと思います。

一覧へ戻る

コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

トップページへ