へるぱ!

今なら語れる「障害を越えて」

第2回 見えない物との戦い“挑戦者になって”

これまであれもこれも見えていたので、何の不便さも感じませんでしたが、突然光を失うことの不便さが、あまりにも大きいことに驚きました。手の届く範囲までが、自分の世界に変わったのだから大変です。

最初に取り組んだのが、その狭い範囲をどれだけ広げられるかの挑戦でした。まず自分の部屋にあるひとつひとつの物に触って、確認することから始まりました。物に触るたび、隣にある品物を倒したり、落としたり。倒した物を起こして確認し、元の位置に戻して場所を覚えます。“触る” “落とす” “置く” “覚える”を繰り返しながら覚えるまでは、諦めることなく何度も何度もその一連の動作を繰り返しました。また、自分の部屋内にある物の場所を覚えたからといって終わりにはなりません。他に出入りのあるリビングルーム、食堂、トイレ、お風呂、玄関など、日常生活に使用される場所を移動しては同じ確認作業を繰り返します。

私がある程度確認できるまでに、1年以上を要しました。でもこれで終わりではありません。というのも、一度覚えたそばから、自分の部屋以外は、家内が物の位置を変えることもあるため、何度も覚え直す必要があるからです。健康である時も探し物をすることは当たり前でしたが、今の頻度は想像を超えており、家庭内トラブルを避けるためにも、お互い理解し合うことが大切です。

全ての位置を確認するために時間の積み重ねが必要で、家族の皆さんにはぜひ、視覚障害者の癖である“手で触れて確認する、物を倒す”という行動パターンを理解していただき、足元に物を置かないといった心配りをしていただければと思います。理解し合うには時間がかかりますが、これからの生活に欠かせない重要事項ですので、家族全員が根気強く協力し合えるようお願いします。

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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