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第16回 認知症の介護 「まずは型と症状で再確認を」

認知症はタイプによって症状も異なる

 認知症の高齢者は年々増加しています(表1参照)。当然、認知症の方を介護する機会も多くなりますし、現在の利用者さんが認知症になる可能性もあるわけですね。
 そこでまず、あらためて確認してほしいのが、認知症の種類と特徴です。表2にまとめましたが、一番多いアルツハイマー型は徐々に進行するタイプです。初期の頃は、本人も自らの変化を感じて不安になります。レビー小体型やピック病は、率としては少ないのですが、進行が早いのが特徴的です。また、急激な人格変化が起きるピック病や、感情の起伏が激しくなる脳血管性は、家族も認知症と気づかず、変化を受け入れられずに悩むケースも少なくありません。

表1:認知症高齢者数の現状と将来推計

表2:主な認知症の症状

 一方、認知症に似た症状を引き起こす病気もあります。その代表が、慢性硬膜下血腫と正常圧水頭症。前者は、過去の頭部打撲が原因で徐々に血腫が起き、それが脳を圧迫して起きる症状です。血腫を取り除けば治るのですが、本人や家族が打撲したことを認知していないと、認知症と思い込んで放置することにも繋がりかねません。後者は、脳脊髄液の不全が原因で、脳脊髄液を持続的に抜き、体内に戻すシャント手術をすれば回復します。その他、ホルモンが減少して活動的でなくなる甲状腺機能低下症もあります。
 多くの場合、家族はこうした知識を持っていません。だからこそ、ヘルパーは重要な存在。認知症と思われる症状が出た際には、家族に説明して理解を促す、または医療につなげていくなどのサポートが求められるのです。

相手の生活の背景や生きてきた時代を考える

 では、認知症の方の介護で大切なことは何かというと、とことん寄り添って理解すること、これに尽きます。ただ、言うは易し。一生懸命寄り添っているつもりなのに「あっちへ行け」なんて言われて落ち込むことも多いと思います。こうしたことは、経験の浅いうちは、むしろ自然なこと。ヘルパーにも不安や緊張があって、それが相手に伝わるんですね。だからまずは「ああ、不安なんだな」と理解する。そして時間がかかってもかまいませんから、相手が今までどう生きてきたか、生活や人生の背景を知る努力をしてみましょう。人間の人生は一人ひとり違います。加えて、高齢者は生きてきた時代が違う。「知る」には、自分が当たり前と思っている生活や価値観を離れてみることが大切です。周囲の人や家族に聞いて、手がかりを得るのも一つの方法です。

尊厳を守って、人間同士として向き合う

 一方で、不安や怒りの感情を抱く状況は、基本的には変わりません。一言で言えば、自分の尊厳をおかされる時です。皆さんだって、誰かにバカにした態度を取られたら腹が立つでしょう。だから、いくらお風呂が好きでも、いきなり知らない人に服を脱がされたら屈辱を感じて当然。入浴剤の匂いや湯気を感じて、入浴だと理解してもらうことが大切です。  このように、一人の人間同士として向き合っていく、その積み重ねが、介護のプロとして成長していくことにつながるのです。とはいえ、ヘルパーだって様々な感情を持つ人間。なかなかいい関係性が築けず心が折れそうになる時もあるでしょう。そんな時は、ヘルパー同士で情報を交換したり、悩みを話し合うことも大切です。
 また、不安からではなく、症状として攻撃的になっていて対応しきれない時や若い女性ヘルパーで男性のご利用者さんの対応に困った時などは、きちんとサ責にSOSを出して、担当を換えてもらいましょう。一人で抱え込んだり、我慢したりする必要はないということも、ぜひ心に留めておいてくださいね。

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コラムニスト紹介

白井 孝子

東京福祉専門学校教務主任

プロフィール

看護師として働くなかで患者の退院後の生活支援の大切さを痛感。福祉分野を学び、訪問看護師の仕事を経て、東京福祉専門学校の教職に就く。利用者を中心とした介護と医療の連携を痛感しており、21年に及ぶ豊富な介護福祉士教育の経験から滲み出る福祉の本質に迫る話が多くの学生たちの心を捉えている。

介護福祉士国家試験委員・介護福祉士養成課程における教育内容等見直しに関する作業チーム特別委員等も務める。著書に「介護に使えるワンポイント医学知識」(中央法規出版)、「新・介護福祉士養成講座」(中央法規出版・編著)、「介護福祉士養成テキスト」(建帛社・編著)など。

著書・出版

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