へるぱ!

現場で働く若い人へ

第15回 介護職の専門性とは「その人らしさ」を支える生活創造であり、医療技術の習得もそのためにある

介護職の医療行為は単なる業務拡大にあらず

 たんの吸引と胃ろうのケアができるようになって、介護職の医療行為の範囲は大きく広がりました。このことにやりがいを抱く人も、逆に、責任の重さに不安を感じる人もいることでしょう。ここで考えたいのが『介護職の専門性とは何か』です。

 もともと介護職は、医療法第17条に基づく「医療除外行為」として、薬剤の塗布や浣腸などを行うことができるようになっています。看護と介護が重なるグレーゾーン(図1)が以前からあり、今回の制度改正はこれが広がった格好です。必要な利用者がいて、実施が必要であれば、きちんと研修を受けて確実な知識と技術を修得してから行ってほしいと思います。また、注意しなければいけないのが、例え看護と同じ行為をしていても、前提にあるのは介護職のゾーンであるということ。あくまでもその専門性のなかから医療行為を見つめていく必要があります。

図1:看護と介護のグレーゾーン

 他の事柄でも同じです。日ごろからご利用者さんと関わるなかで、「何かおかしい」と感じることがあったとします。その時に、「吸引をしにきたのだから」と処置のみにとらわれるのではなく、全体像を確認し、介護行為につなげていくことが大切になってきます。それには、吸引なら呼吸、胃ろうなら消化など、技術にまつわる人間の生理的な知識を自ら学ぶことも、また、どこがどうおかしいのかを言葉にして、医師や看護師に伝える力も必要になってきます。つまり、それは自分の行為の意味を考えることでもあります。これは医療行為に限ったことではありません。例えば、褥瘡を防ぐために2時間ごとに体位交換をするのがなぜ必要かといえば、同じところを圧迫していると血流が途絶えて、組織が壊死するからです。それが分かっているからこそ、交換時に皮膚状態をチェックし、異常があれば医療に連携して褥瘡を未然に防いでいくわけです。介護職の医療行為とは、「治療」ではなく、その人の生活全般を支えるためのもの。これこそが、介護職の専門性だといってよいのはないでしょうか。

その人らしい生活の構築は「考えること」から始まる

 では、「生活全般を支える」とはどういうことでしょうか。前回、胃ろうの方のケアで、「食べる」という機能を忘れないための支援、「食べる」ことについての知識獲得、相手の食へのこだわりの発見と、3つのポイントをお話ししました。言葉を換えれば、これは重度化した方の生活を再構築するものです。その力となるのが、最後の「こだわり」です。「こだわり」には、その人が生きてきた歴史が反映されます。例えば、日本茶よりもコーヒーを好む方なら、そこから今までの生活を想像することができる。もちろん、食べものに限らず、重度の方にも限りません。ちょっとした言動を見過ごさないで考えることが、相手の積極性を引き出し、「その人らしさ」を大切にした生活支援を可能にするのです。といっても、若い方には知らない時代のこと。想像するのは、なかなか難しいかもしれません。何かアンテナに引っかかったことや印象的な体験があれば、先輩も含めた介護職と話し合い、様々な研修会に参加するなど、利用者さんと同じ世代の暮らしを知るための行動につなげ、どんどん視野を広げていくことが大切です。

 どんな仕事でもそうですが、プロフェッショナルとは、目の前で起きたことや疑問をそのままにしないで、自ら考えて答えを求めていく人です。技術にしても、単に技術として習得するだけではなく『なぜこの技術が必要か」と考えられる人がプロフェッショナルといえるのではないでしょうか。今、認定介護福祉士の創設など、介護職の専門性を高めるキャリアパスの検討が始まっています(図2)。若い人は、様々なことに反応する感性を持っています。今から、『真の生活支援とは何か」を考えることで、キャリアアップの道は開かれていくはずです。

 

表2:今後の介護人材キャリアパス

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コラムニスト紹介

白井 孝子

東京福祉専門学校教務主任

プロフィール

看護師として働くなかで患者の退院後の生活支援の大切さを痛感。福祉分野を学び、訪問看護師の仕事を経て、東京福祉専門学校の教職に就く。利用者を中心とした介護と医療の連携を痛感しており、21年に及ぶ豊富な介護福祉士教育の経験から滲み出る福祉の本質に迫る話が多くの学生たちの心を捉えている。

介護福祉士国家試験委員・介護福祉士養成課程における教育内容等見直しに関する作業チーム特別委員等も務める。著書に「介護に使えるワンポイント医学知識」(中央法規出版)、「新・介護福祉士養成講座」(中央法規出版・編著)、「介護福祉士養成テキスト」(建帛社・編著)など。

著書・出版

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