へるぱ!

現場で働く若い人へ

第13回 真の医療と介護の連携は「介護の現場」から生まれる

在宅医療のニーズは増加の一途をたどっている

 厚生労働省の推計によれば、平成20年に在宅医療を受けた65歳以上の人は8万6600人。うち、75歳以上は7万6300人となっています(表2)。平成17年には、それぞれ5万5300人、4万8000人でしたから(表1)、わずか3年で約3万人増えたことになります。この数値は、医療と介護の連携が叫ばれるゆえんでもありますが、にもかかわらず「かけ声だけで何もできていない」という現場の嘆きをよく耳にします。
 施設なら、医療職も介護職も同じ場にいるから連携もスムーズ。しかし、在宅ケアでは一緒にご利用者さんを訪ねることがほとんどないので、「連携、連携」と言われても、具体的に何をどうしていいかわからないというのが本当のところでしょう。サービス担当者会議も、必要な時にすぐ全員を招集するのは、現実問題として不可能です。一方で、在宅医療を支える訪問看護ステーションも、決して十分とはいえません。社団法人全国訪問看護事業協会の調査では、稼働数が平成21年の5767が、平成22年には5731と、増えるどころか減少傾向にあるという結果が出ています(表3)。高齢者が増加しているのですから、今後も在宅医療のニーズが高くなるのは必至。果たして今のような体制で対応しきれるのか? という不安や疑問は、誰もが抱くところです。

「おかしい」と思ったらどんどんサ責に相談しよう

 そこで私が提案したいのは、「本当の医療と介護の連携とは何か?」を改めて問うこと、そして、個々の利用者にとってベストは何かを考えることです。
 ご利用者さんからすれば、医療も介護も、その人の生活のなかで出てくるニーズです。しかも、ここまでが介護で、ここからが医療というように、すっきり分けられるものではありません。むしろグレーゾーンのほうが多いぐらいで、そこで起きる微妙な変化をキャッチして対応することが、かけ声に終わらない、本当の意味での「医療と介護の連携」を生みだす力になるといってよいでしょう。とすれば、そのカギを握るのは、日々ご利用者さんと接しているヘルパーです。特に若い方たちに期待したいと思っています。介護保険がスタートしてから10年たった今、それ以前の「措置」の時代に比べて、医療と介護の壁は高くなっています。そこに慣れていると、「おや?」と思うことがあっても、せいぜい報告して終わってしまいがち。サ責やケアマネジャーに介護の範囲を超えた提案をする発想が、なかなか生まれてこないのです。こうした既成の枠組みに取りこまれていない若い人だからこそ見える疑問や、「こうしたら?」という意見は、確実にあると私は思います。それを、臆せずに相談したり提案したりすることは、ご利用者さんにとって本当に有効な「医療と介護の連携」をつくることにつながるはずです。

意識して、アセスメント力とコミュニケーション力を培う

 そのために育ててほしいのが、第一にアセスメント力。「いつもと違うな」と思ったら、具体的にどこがどう変なのかを観察し、サ責に相談すべきかどうかを判断する力です。最低限、バイタルチェックを判断の指針にする力は身につけてほしいですね。勘だけに頼って「問題なし」という結論が続いたら、それこそ狼少年。相手が本気で取り合ってくれなくなっても不思議はありませんし、また、自分でも判断がつかなくなってきます。第二が、コミュニケーション力。アセスメントした結果や、自分なりに必要だと考えるケアを、サ責やケアマネジャーに、きちんと整理して伝える力です。言うまでもなく、これらの力は日々の仕事を通して培われるもの。何事もなくても、微妙な変化をキャッチすることを意識してほしいと思います。

【全国で在宅医療を受けた推計患者数(年齢別)】

表1 平成17年患者調査

在宅医療 往診 訪問診療 医師・歯科医師
以外の訪問
総数 64,800 24,500 34,500 5,900
0~14歳 600 600 0 0
15~34歳 1,700 1,200 300 100
35~64歳 7,200 3,700 2,400 1,100
65歳以上 55,300 19,000 31,700 4,700
(再掲)
70歳以上 52,600 17,700 30,500 4,400
75歳以上 48,000 16,000 28,300 3,800

厚生労働省

表2 平成20年患者調査

在宅医療 往診 訪問診療 医師・歯科医師
以外の訪問
総数 98,700 28,800 56,800 13,200
0~14歳 900 500 300 0
15~34歳 2,200 1,600 300 200
35~64歳 8,800 4,200 2,900 1,700
65歳以上 86,600 22,300 53,100 11,200
(再掲)
70歳以上 82,700 20,700 51,400 10,500
75歳以上 76,300 18,700 48,300 9,200

厚生労働省

表3 訪問看護ステーション調査(平成22年4月1日現在)

平成21年 平成22年
届出数 6,007 5,962
内休止 240 231
稼働数 5,767 5,731
平成21年度中の新規並びに 廃止数合計
新規数 389
廃止数 220
旧指数 89

社団法人全国訪問看護事業協会

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コラムニスト紹介

白井 孝子

東京福祉専門学校教務主任

プロフィール

看護師として働くなかで患者の退院後の生活支援の大切さを痛感。福祉分野を学び、訪問看護師の仕事を経て、東京福祉専門学校の教職に就く。利用者を中心とした介護と医療の連携を痛感しており、21年に及ぶ豊富な介護福祉士教育の経験から滲み出る福祉の本質に迫る話が多くの学生たちの心を捉えている。

介護福祉士国家試験委員・介護福祉士養成課程における教育内容等見直しに関する作業チーム特別委員等も務める。著書に「介護に使えるワンポイント医学知識」(中央法規出版)、「新・介護福祉士養成講座」(中央法規出版・編著)、「介護福祉士養成テキスト」(建帛社・編著)など。

著書・出版

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