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第6回 認知症ケアのこれまでの取り組みとこれから

日本の介護において最も大きい課題が、認知症ケアについてだと日々思っています。
前々年、前年と国の「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム(第2R)」の一委員として参加してきました。この委員会では、精神科病院に入院する認知症患者が増え続け、入院期間が900日を超えている現状についてどう対応していくべきか議論を重ねてきました。実は、入院患者の約半数が退院可能とされる方々です(資料1)。しかし、受け皿の問題があり、地域に帰れないなど、結論がなかなかでないまま最後のまとめに入りました。どうも、医療側、家族側、介護側の都合を主軸にしているため、利用者(認知症の人本人)が中心に置かれないのです。最終的なまとめとしては、認知症患者を平成32年くらいまでには、入院2か月で退院できるようにするとしたのですが、しかし、どうなのでしょう。日本の精神科病院は、国の施策により民間が運営し続けてきました。民間ですから利益を生まなければ病院を続けることはできませんし、組織を大きくすることはできません。他国から見ても、あまりに入院患者が多すぎると言われているそうです。

認知症による精神病床入院患者の退院可能性と理由

ある大学教授がA県の会議で次のようなまとめを発言しました。「特養の待機者が多いと言う理由で、都市部では家族やその関係者の強い働きにより特養が新しく生まれ続けています。現状として、作れば作るほど入所をさせたい家族が増え続けるのではありませんか?」と。認知症の人が多く入院している精神科病院も同じではないかと思うのです。精神疾患の患者は地域で暮らすようになってきました。ベッドが空きます。空いたベッドに入院をさせたい病院側と対応に苦しんでいる家族の思いが合致して入院患者が増え続けるのです。

認知症の人への対策と、それを支える家族や介護職員の教育をどのようにすれば地域での暮らしが可能になるのか、さらに上層部で議論されてきました。まとまった報告書が6月18日に出されたのですが、私は画期的な報告書だと思っています。ようやく、長く悩み考えていたことが、少しずつ解決し、良い方向に向かうのだと。私はこの報告書を他の方々に伝えるとき「認知症の流れを変える」という報告書が出されたよ、と言っています。

一部を資料として載せます。

Ⅰ これからの認知症施策の基本的な考え方

【これまでの認知症施策を再検証する】

○ 世界に類をみない長寿国である日本で、高齢者が認知症になっても、尊厳をもって質の高い生活を送ることは、私たちの共通の望みである。

○ かつて、私たちは認知症を何も分からなくなる病気と考え、徘徊や大声を出すなどの症状だけに目を向け、認知症の人の訴えを理解しようとするどころか、多くの場合、認知症の人を疎んじたり、拘束するなど、不当な扱いをしてきた。今後の認知症施策を進めるに当たっては、常に、これまで認知症の人々が置かれてきた歴史を振り返り、認知症を正しく理解し、よりよいケアと医療が提供できるように努めなければならない。

○ 平成12年に施行された介護保険法は、これまで認知症の人に対するケアの充実に一定の役割を果たしてきた。平成18年の改正では、主として認知症の人を念頭に、介護保険法の目的に、「高齢者の尊厳の保持」が加えられた。さらに、平成24年の改正では、認知症に関する調査研究の推進規定が設けられた。また、市町村介護保険事業計画では、認知症である被保険者の地域における自立した日常生活の支援に関する事項を定めるよう努めることとされた。

○ これまで、認知症施策については、その促進を図る観点から、「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト報告書」(平成20年7月)、社会保障審議会介護保険部会での「介護保険制度の見直しに関する意見」(平成22年11月)、「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム第2Rとりまとめ」(平成23年11月)等で様々な提言がなされ、実施されてきている。

○ 今回のプロジェクトチームでは、これまでの議論に加え、新たに関係者へのヒアリング等を行い、過去10年間の認知症施策を再検証した上で、今後目指すべき基本目標とその実現のための認知症施策の方向性について検討した。

【今後目指すべき基本目標-「ケアの流れ」を変える-】

○ このプロジェクトは、「認知症の人は、精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指している。
この実現のため、新たな視点に立脚した施策の導入を積極的に進めることにより、これまでの「自宅→グループホーム→施設あるいは一般病院・精神科病院」というような不適切な「ケアの流れ」を変え、むしろ逆の流れとする標準的な認知症ケアパス(状態に応じた適切なサービス提供の流れ)を構築することを、基本目標とするものである。

一部を資料として載せます。

Ⅰ これからの認知症施策の基本的な考え方

【これまでの認知症施策を再検証する】

○ 世界に類をみない長寿国である日本で、高齢者が認知症になっても、尊厳をもって質の高い生活を送ることは、私たちの共通の望みである。

○ かつて、私たちは認知症を何も分からなくなる病気と考え、徘徊や大声を出すなどの症状だけに目を向け、認知症の人の訴えを理解しようとするどころか、多くの場合、認知症の人を疎んじたり、拘束するなど、不当な扱いをしてきた。今後の認知症施策を進めるに当たっては、常に、これまで認知症の人々が置かれてきた歴史を振り返り、認知症を正しく理解し、よりよいケアと医療が提供できるように努めなければならない。

○ 平成12年に施行された介護保険法は、これまで認知症の人に対するケアの充実に一定の役割を果たしてきた。平成18年の改正では、主として認知症の人を念頭に、介護保険法の目的に、「高齢者の尊厳の保持」が加えられた。さらに、平成24年の改正では、認知症に関する調査研究の推進規定が設けられた。また、市町村介護保険事業計画では、認知症である被保険者の地域における自立した日常生活の支援に関する事項を定めるよう努めることとされた。

○ これまで、認知症施策については、その促進を図る観点から、「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト報告書」(平成20年7月)、社会保障審議会介護保険部会での「介護保険制度の見直しに関する意見」(平成22年11月)、「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム第2Rとりまとめ」(平成23年11月)等で様々な提言がなされ、実施されてきている。

○ 今回のプロジェクトチームでは、これまでの議論に加え、新たに関係者へのヒアリング等を行い、過去10年間の認知症施策を再検証した上で、今後目指すべき基本目標とその実現のための認知症施策の方向性について検討した。

【今後目指すべき基本目標-「ケアの流れ」を変える-】

○ このプロジェクトは、「認知症の人は、精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指している。
この実現のため、新たな視点に立脚した施策の導入を積極的に進めることにより、これまでの「自宅→グループホーム→施設あるいは一般病院・精神科病院」というような不適切な「ケアの流れ」を変え、むしろ逆の流れとする標準的な認知症ケアパス(状態に応じた適切なサービス提供の流れ)を構築することを、基本目標とするものである。

【7つの視点からの取組み】

○ 上記の基本目標(「ケアの流れ」を変える)の実現のために、現在行われている施策について、多くの意見や批判を踏まえて、見直しやバージョンアップを図ることにした。新規施策と合わせて、地域で医療、介護サービス、見守り等の日常生活の支援サービスが包括的に提供される体制を目指し、具体的には、以下の7つの視点に立って、今後の施策を進めていくことにする。

1.標準的な認知症ケアパスの作成・普及

① 認知症の状態に応じた適切なサービスの提供

2.早期診断・早期対応

① かかりつけ医の認知症対応力の向上

② 「認知症初期集中支援チーム」の設置

③ アセスメントのための簡便なツールの検討・普及

④ 早期診断等を担う「身近型認知症疾患医療センター」の整備

⑤ 認知症の人の適切なケアプラン作成のための体制の整備

3.地域での生活を支える医療サービスの構築

① 「認知症の薬物治療に関するガイドライン」の策定

② 一般病院での認知症の人の手術、処置等の実施の確保

③ 一般病院での認知症対応力の向上

④ 精神科病院に入院が必要な状態像の明確化

⑤ 精神科病院からの円滑な退院・在宅復帰の支援

4.地域での生活を支える介護サービスの構築

① 医療・介護サービスの円滑な連携と認知症施策の推進

② 認知症にふさわしい介護サービスの整備

③ 地域の認知症ケアの拠点としての「グループホーム」の活用の推進

④ 行動・心理症状等が原因で在宅生活が困難となった場合の介護保険施設等での対応

⑤ 介護保険施設等での認知症対応力の向上

5.地域での日常生活・家族の支援の強化

① 認知症に関する介護予防の推進

② 「認知症地域支援推進員」の設置の推進

③ 地域で認知症の人を支える互助組織等の活動への支援

④ 「認知症サポーターキャラバン」の継続的な実施

⑤ 高齢者の虐待防止などの権利擁護の取組の推進

⑥ 市民後見人の育成と活動支援

⑦ 家族に対する支援

6.若年性認知症施策の強化

① 若年性認知症支援のハンドブック作成

② 若年性認知症の人の居場所づくり

③ 若年性認知症の人のニーズ把握等の取組の推進

④ 若年性認知症の人の就労等の支援

7.医療・介護サービスを担う人材の育成

① 「認知症ライフサポートモデル」の策定

② 認知症ケアに携わる医療、介護従事者に対する研修の充実

③ 介護従事者への研修の実施

④ 医療従事者への研修の実施

このような内容が挙げられています。数年間かけて、実行可能となるように来年度あたりから事業が行われる予定なのです。是非、厚生労働省のホームページから引き出して、全体に目を通してもらいたいと思っています。

参照元:
【厚生労働省-「今後の認知症施策の方向性について」のとりまとめについて】
http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/houkousei.html
認知症の人は既に305万人と報告されました。誰でもがその立場になる可能性はあるのです。

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コラムニスト紹介

柴田 範子

NPO法人「楽」理事長

プロフィール

1987年川崎市においてホームヘルパーとして勤務。

1999年4月上智社会福祉専門学校の講師として教壇に立つ。

2004年 その傍ら、NPO法人「楽」を設立し、2005年4月より現職。

NPO法人「楽」は川崎市内を中心に福祉・介護にかかわる事業、研修、研究、相談事業等を行っており、認知症デイサービスセンター「ひつじ雲」を川崎市幸区に開設。 2006年5月に新制度の「小規模多機能型居宅介護」へ形を変え、それと同時に新たに「認知症対応型通所介護」(デイサービスセンターくじら雲)を同じ幸区内に開所している。
くじら雲では若年認知症ケアにも取り組んでいる。

神奈川県社会福祉審議会委員や介護福祉士国家試験委員、現在進められている介護福祉士養成課程における教育内容見直しの作業チームの一員として、介護の質を高めたいと言う願いを持って参画している。

著書・出版

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