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第5回 業務範囲と複数の物差し

訪問介護の業務範囲をどのように考えればいいのか。これは、サービス提供責任者にとって大きな課題なのではないでしょうか。といいますのは、“法律や制度”の物差しだけで業務範囲が決まるわけではないからです。いや、法や制度の解釈にしても保険者ごとに温度差があるのはご存じのとおりですし、昨日はOKだったものが、今日はNGなんてことも少なくありません。

法や制度に加えて、“事業所の方針”も業務範囲に影響します。もちろんこの方針も一筋縄ではいかず、法の遵守(コンプライアンス)・利益の追求・社会的使命などの要因が重なり合って方針が決まります。「あれもできない、これもできない」では依頼件数は増えないでしょうし、「何でもやります」では行政から指導を受けるかもしれません。また、法人のトップと事業所のトップの間に意見の相違があったりすると、サービス提供責任者は頭を抱えてしまいます。
“職業倫理”も大きな要素です。時として、事業所が組織防衛や利益のみを追求したり、行政が杓子定規な制度運用を要求したりすることで、利用者が不利益を被る場合があります。このような時には、「利用者の利益を守る」という職業倫理を、事業所や行政にぶつけていく勇気が必要です。それが対人援助を職業とする者の誇りと責任なのだと思います。

業務範囲には、ホームヘルパー各人の“経験やスキル”も影響を与えます。「熟練者に任せられても未熟者には任せられない」といったこともしばしば起こります。

そしてもう一つ。ホームヘルパーやサービス提供責任者1人ひとりの“生き方や考え方”が重要な要素となるはずです。例えば、困っている人に出会った場合、どのような態度や行動をとるかは、人それぞれに違います。職業人も生身の人間です。業務範囲に、生き方や考え方が反映されるのは、ごく自然なのではないでしょうか。逆に、自分の生き方や考え方と正反対の仕事を続けるなんて、とてもつまらないことだと思いませんか。

このように、業務範囲は一つの物差しで決まるのではなく、法律や制度、事業所の方針、職業倫理、経験やスキル、そして、生き方や考え方といった複数の物差しが絡み合い決まっていくのです。実は、その「悩ましさ」こそが、とても貴重な営みのように思えてくるのです。悩めるサービス提供責任者は美しいのです。

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コラムニスト紹介

佐賀 由彦

フリーライター

プロフィール

1954年大分県別府市生まれ、早稲田大学社会科学部卒業。

ノンフィクション、雑誌編集、マンガ・アニメーションの原作、脚本、映像プロデュースなど幅広い活動を続ける。
現在、月刊誌「ケアマネジャー」(中央法規発行)の編集を行いながら、多数の連載記事を執筆中。

医療・福祉系の仕事が多く、医学書院・中央法規などから、「透析セルフケア」「(相談援助)面接への招待」、「回想法」、「ホームヘルパーの役割と可能性」、「エラー見えますか?(医療安全対策)、「ネーベン物語(研修医ドラマ)」などの映像作品の脚本・プロデュース、「変わる社協」「地域サービス解体新書」などの雑誌連載を手がける。

著書・出版

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