へるぱ!

介護を受けるプロ

第44回 春の喜び     2022/04/25

 札幌は5月の終わりごろになると、ようやく日陰の雪も溶けタンポポの花が咲いてきます。タンポポの花をじっと見ていると、幼い日のことを思い出します。草の上に座り、友だちの真似をして足指でタンポポの茎をちぎり、編んでみたところ、とてもきれいに花輪ができました。熱を出した友だちがいたので、その花輪を足首にひっかけて持っていきました。

 65歳になると花輪も作れなくなり、ちょっと悲しい気持ちになります。しかし、春には心が燃えることがひとつあります。ヘルパーさんの手を借りて、ベランダのプランターにいろいろなものを植えることです。土に肥料をたくさんあげ、苗をたくさん植えます。今年は大葉・エゴマ・三つ葉・ミント・ミニトマト・ラディッシュ、あとは花々を植えました。窓のサンが高いので、車いすに座っていると、なかなかベランダに植えたところが見えません。首を上げ、体を思いっきり前に出して見ようとしますが、ひっくり返りそうになったのでやめました。ヘルパーさんに苗の植え方を細かく言わなければなりませんが、楽しいことです。私の動かない手が動いているようなイメージで、一生懸命土を掘っているような気分になり、「5センチくらい掘ってください」と頼みます。でも、植えてみると5センチでは足りませんでした。

 ヘルパーさんも根気よく「こうですか? これでいいですか?」と何回も聞きながら動いてくださいます。まさにヘルパーさんは私の手です。大葉やトマトやラディッシュが豊作になったなら、ヘルパーさんたちにほんの少しだけおすそ分けをしています。採りたてのものはとても美味しいです。これからそれを育てて食べることが、私の生きがいになっています。生きていくうえでささやかな喜びをもつことが、大切ではないでしょうか。

 私は初めて小説というものを書いてみました。タイトルは『風花に揺れるピアス』といいます。若い障がい者たちが社会の壁にぶつかりながら真実の愛を探して、生きる喜びを知るドラマです。キスシーンやベッドシーンもたくさん書いてしまいました。ヘルパーさんとの恋愛物語も書いてしまいました。ほとんど違反ですけれど、小説だから書いてもいいのです。本になることを私は願っています。

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コラムニスト紹介

小山内 美智子

障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長
前社会福祉法人アンビシャス施設長

プロフィール

1953年生まれ。
障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長。前社会福祉法人アンビシャス施設長。
自身、脳性麻痺で「ケアを受けるプロ」を自認。

2008年 悪性リンパ腫を発病したが、半年の闘病生活を経て、社会復帰を果たす。
北海道大学医学部作業療法学科で教鞭をとるなど、介護教育に力を入れている。

また、著書『わたし、生きるからね』(岩波書店)などほか多数あり。

著書・出版

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