へるぱ!

介護を受けるプロ

第42回 ぼたん雪の舞う夜空に花火をあげたい      2022/1/20

 札幌はあたり一面雪が降り、車いす利用者にとっては外へ出にくい季節になった。(あまり外へ遊びに行けないなぁ。何をして楽しもうか)と暗い気持ちになっていた。いくらテレビやマスコミに出ても、講演会を行っても、本を書いても、ヘルパーをやってみたいという人が来ない。

 これからどのようにして生きていこうかなと考えていたとき、合同就職説明会に採用側として参加した。優しそうな参加者の人に、施設の経営者が必死になり口説いていた。あまりにも口説かれすぎて疲れている人もいた。いちご会のような小さなヘルパー事業所にはだれも来てくれないだろうなと思いながらも、職員と一緒にビラを配ったり声かけをしていた。

 そのとき、目がキラキラと輝く若い女性が来て、「小山内さんですか? 私、学校で小山内さんが出ているDVDを見たのです。先生からもいろいろ習いました。ぜひ働かせてください」と言い、椅子に座ってくださった。(あぁ、宝物がどこからか飛び込んできた!)というような思いがした。彼女は積極的にいちご会のことを聞き、サービス提供責任者と話していた。

 それから1週間ほど経ち、彼女は私の家に来て、朝の10時から17時ごろまで私の生活を見ていた。少しだけ、ごはんを食べさせていただいたり、髪を洗ってもらったりした。手がまったく緊張なくぶれていない。自分のことのように行っていた感触があり、(あぁ、この子は学校で真剣に研修を受けてきたのだな)ということが肌で感じ取れた。私のほうが(彼女を逃すまい!)と思い、言葉づかいに気をつけたり、転んでけがをしたりしないようにと、心臓が高鳴っていた。彼女のお母さんがデイサービスで働いており、私のことをよく知っているという。(やっぱりマスコミに出て本を書いておくものね!)と、私は深く自分のおごり高ぶりを反省した。彼女が帰ったあと、ぐったり疲れてヘルパーさんの肩を借りて、ちょっとだけ眠ってしまった。「今日はよい日だった。ぼたん雪の空に花火をあげたいくらいだわ」と言うと、ヘルパーさんは「きれいな表現ね! 私もそういう思い、よくわかるわ」とおっしゃってくださった。

 とにかくなんでもあきらめないことが、私たちが生きるうえで一番大切なことだと思う。これからももっともっと私は、いろんなアイディアを考え、社会に顔を出さなければいけないと思った。

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コラムニスト紹介

小山内 美智子

障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長
前社会福祉法人アンビシャス施設長

プロフィール

1953年生まれ。
障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長。前社会福祉法人アンビシャス施設長。
自身、脳性麻痺で「ケアを受けるプロ」を自認。

2008年 悪性リンパ腫を発病したが、半年の闘病生活を経て、社会復帰を果たす。
北海道大学医学部作業療法学科で教鞭をとるなど、介護教育に力を入れている。

また、著書『わたし、生きるからね』(岩波書店)などほか多数あり。

著書・出版

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