へるぱ!

介護を受けるプロ

第37回 この部屋は私の部屋       2020/7/3

 私のところにはヘルパーさんが12人来てくださっている。長い人では25年くらいになる。ヘルパーさんが私のところに長く来てくださることは、私の誇りである。私が嫌われてしまうと、ヘルパーさんは辞めてしまうだろう。私がヘルパーさんと意見が合わなければ、タイミングを見て派遣を断るかもしれない。小さな部屋の中で2人だけでいるということは、うまくいっているときは楽しいが、ちょっとでも意見がすれ違うと、あまり口をきかないようになったり、何でも「はいはい」と言うようにしているときもある。きっとヘルパーさんも、私の機嫌が悪いときは同じようにしているに違いない。このようなことは、どこの職場に行ってもあることだ。

 10年以上来ているヘルパーさんは、「こんばんは」と言って手を洗い、リビングに入ってくる。そして私の指示なく、いつものようにテレビをつけてしまう。私は心の底で(今日はテレビを見るエネルギーはないな。静かな空間でいたかったな)と思ってしまう。ちょっと心が苛立ちながら、私は我慢をして夕食を食べさせていただく。私は夜、ウイスキーを少し飲みながら、ごはんを食べている。お酒をちょっと飲むと心がやわらかくなり、「すみませんが今日は疲れているので、テレビを消してください」と言う。ヘルパーさんは「あら、ごめんなさいね」と消してくださる。でも時折ヘルパーさんによっては「今日は良いニュースをやっているのよ!見たほうがいいわよ」と言う人もおり、(うーん、ここは私の家でありテレビも私のものなのにな。つけるかつけないかは、私が決めちゃダメなの?)と思ってしまう。

 ケアを受けて生きるということは、こういうことの繰り返しである。ヘルパーさんの手はさまざまな個性をもっている。自分の手のようには動かないときもある。私はただの人間。「テレビを消してください」と、どうやわらかく言おうか考えるうちに、カッとなって「お願いだから消してください!」と言ってしまう。(あぁ怒らせてしまったかな。このヘルパーさんに辞められてしまったら、どうしたらいいだろう)と反省する。高齢者のケアの場合は、ヘルパーさんが声かけをしながら行う。でも障がい者は、本人から声をかけてヘルパーさんに動いてほしい。そこが大きく違うのかもしれない。

 ケアの問題だけでなく、人間関係は言ってはいけないことを言ってしまい、後悔することが多い。反省できることならいいが、たまには許せないこともある。生きるって大変なこと。でも楽しい人生である。

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コラムニスト紹介

小山内 美智子

障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長
前社会福祉法人アンビシャス施設長

プロフィール

1953年生まれ。
障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長。前社会福祉法人アンビシャス施設長。
自身、脳性麻痺で「ケアを受けるプロ」を自認。

2008年 悪性リンパ腫を発病したが、半年の闘病生活を経て、社会復帰を果たす。
北海道大学医学部作業療法学科で教鞭をとるなど、介護教育に力を入れている。

また、著書『わたし、生きるからね』(岩波書店)などほか多数あり。

著書・出版

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