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介護を受けるプロ

第36回 切実な問題です       2020/3/13

 私は生まれたときから手を使ったことがありません。夢でも足を使っています。子どものころ、「なぜ神は足に5本の指をつけたのか」ということを考えていました。ちょっと変なことを考える子どもでした。いろいろな人と付き合いたいと思い、キリスト教の教会に行きました。牧師さんの話をよく聞いているとき、ひらめきました。神は手が使えない人のために、足に指を5本つけてくださったのだと思いました。

 最近、65歳になり、どんどん障害が重くなってきています。脳性まひ者の現実です。トイレに入っているときも、5年くらい前まではちゃんと座っていられたのですが、だんだん座っていることも大変になってきました。手が使えないので、手すりにあごやおでこを使って体を支えていました。そのうちおでこに傷がつき、ぶつけないようにと手すりにクッションを当てました。おでこの傷は一時的には綺麗になるのですが、またぶつけて化膿して血が出るのです。3年間そんなことを繰り返していました。(不思議だな、近くの皮膚科に行って薬をいただいているのになぜ治らないのか)と思っていました。皮膚科の医師は 「この傷は3年経ちますね」とのんきに言いました。私はあわてて(これは何かある)と思い、市立札幌病院に紹介状を書いてもらいました。すると『基底細胞ガン』という病名がつけられました。(またガンかよ)とちょっと落ち込みましたが、「悪さをしないガンなので大丈夫ですよ」と優しい女医さんがおっしゃってくださったので安心しました。ガンを切除するために、おでこに刺した痛み止めの注射で、経験したことのない痛みが走り、声も出ませんでした。もうあの経験はちょっとしたくないけれど、生きるためには必要かもしれません。

 在宅で生活していると危険なところがたくさんあるので、作業療法士さんが見回りに来て、生活上危ないことはないかと、チェックしていただきたいです。施設や病院には作業療法士さんがいますが、在宅に来てくださる方はなかなかいません。これを変えていかないと、またなにかにぶつけてガンになるかもしれません。私の知り合いの筋ジスの方も、足の小指に基底細胞ガンができたので指を取ったそうです。結構そういう人はいるのでしょう。在宅で安全に暮らせるように、一緒に考えてくださる作業療法士さんがほしいですね。この問題に真剣に取り組んでくださる方が現れることを願っています。

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コラムニスト紹介

小山内 美智子

障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長
前社会福祉法人アンビシャス施設長

プロフィール

1953年生まれ。
障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長。前社会福祉法人アンビシャス施設長。
自身、脳性麻痺で「ケアを受けるプロ」を自認。

2008年 悪性リンパ腫を発病したが、半年の闘病生活を経て、社会復帰を果たす。
北海道大学医学部作業療法学科で教鞭をとるなど、介護教育に力を入れている。

また、著書『わたし、生きるからね』(岩波書店)などほか多数あり。

著書・出版

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