へるぱ!

介護を受けるプロ

第34回 狂っている時計       2019/9/10

 私の家には時計が7個あります。いつ何があっても、ヘルパーさんの時間帯を気にしなければいけないので、どこからでも時計を見られるようにしています。気にしすぎて、時計を見ると具合が悪くなってくるときがあります。年に一度でいいから、時間を気にせず暮らしてみたいと思います。

 ある日の朝、洗面台に置いてある時計が1時間くらい遅くなっているような気がして、ヘルパーさんに頼み、リビングの時計を見ていただきました。『あ、この時計壊れている。どうしたんだろう?』と思い、電池が切れていることに気がついたのです。

 しかし、なんとなくその時、その時計の針が止まっているのを見て、私の心は楽になりました。『こういう世界があってもいいんだなぁ。洗面台が私のオアシスだ』と。安らぎの空間を味わおうと思い、しばらく電池を取りかえないようにしようと思いました。しかし、几帳面なヘルパーさんが、「小山内さん、電池取りかえておきましたからね」とおっしゃってくださったので、私は嬉しそうな笑みを浮かべましたが、内心は、『あぁ、この時計、もう少しそっとしておいてほしかった』と思いました。

 でもヘルパーさんの優しいお心には、応えなくてはなりません。「ありがとうございました。本当に助かりました」と苦し紛れに言っている自分が可笑しくて、まるで演劇の舞台の上にいるようでした。生きるって、面白いです。

 こういう何気ない温かな気持ちが、温かくないと感じる自分は愚かでしょうか? でも、ユーモアがあって楽しいことでもあります。誰でもこんな経験があるかと思います。たまには日付を間違ったり、時計が止まったりすることも、面白く生きられる秘訣かもしれません。でも時計の電池を取りかえてくださったヘルパーさんには、心から感謝します。

 ヘルパーさんたちと楽しく生きられる秘訣を、どんどん書いたり話したりすることが、私たちにとって大切な、ヘルパーさんを見つけるきっかけになるのです。

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コラムニスト紹介

小山内 美智子

障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長
前社会福祉法人アンビシャス施設長

プロフィール

1953年生まれ。
障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長。前社会福祉法人アンビシャス施設長。
自身、脳性麻痺で「ケアを受けるプロ」を自認。

2008年 悪性リンパ腫を発病したが、半年の闘病生活を経て、社会復帰を果たす。
北海道大学医学部作業療法学科で教鞭をとるなど、介護教育に力を入れている。

また、著書『わたし、生きるからね』(岩波書店)などほか多数あり。

著書・出版

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