へるぱ!

介護を受けるプロ

第20回 備えあれば憂いなし

私はマンションの5階に住んでいる。車いすやベッドのキャスターのせいで、少しの地震でも敏感に揺れを感じる。北海道にもそのうち大きな地震が来ると言われており、けがをして生き残ったらどうしようかと考えてしまう。今来てくださっているヘルパーさん達も自分の家族のことで精いっぱいになり、避難所ではいつもどおりのケアは受けられないだろう。

東日本大震災を経験した車いすの女性は、避難所の床では固すぎて、毎日車いすの上で座りながら寝ていたという。寝たきりのおばあさんが水を飲みたいと訴えても、周りの人はどう介助したらよいか分からなかったという。

今は日本中の景気が悪いので、ボランティアを呼びかけても無理だろうが、大地震の被害にあった人たちはみな、障がい者ではなかろうか。助け合うために、地域住民が少しでもケアを習っておく必要はないだろうか。これから私は、災害が起こっても地域で少しずつ助け合って生きられるように人を育てていきたいと考えている。

大規模施設で生きている人たちは、普段自分の意志で生活することが少ないので、大震災の時、自分のケアをどう訴えてよいか分からなかったそうだ。それに比べ、日頃からたくさんのヘルパーに手を借りながら生きている人たちは、避難所に行っても、側にいる人にしてほしいことを伝えながらたくましく生きていたという。

ケアを受ける側もする側も、互いに何をしてほしいのか、聞きながら生き残ることを考えなくてはいけない。私たちは福祉の専門家だけに頼っていては生き残れないのだ。地域にいる非専門家の人たちのアイディアと力を借りながら、生きる方法を一緒に考えていきたいと思う。

私は社会福祉法人アンビシャスの施設長を退任したので、少し身軽になった。でも生きている限り“障がい者”という会社を背負って生きなければいけない。だからこそ、これから何をすべきかゆっくり考えていくつもりだ。どんな災害が起きても、多くの人が心地よく生き残れる方法を国民全体で考えていきたいとも思う。日本で地震の来ない場所はない。安全に生きる方法は助け合うことしかないのだと思う。

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コラムニスト紹介

小山内 美智子

障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長
前社会福祉法人アンビシャス施設長

プロフィール

1953年生まれ。
障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長。前前社会福祉法人アンビシャス施設長。
自身、脳性麻痺で「ケアを受けるプロ」を自認。

2008年 悪性リンパ腫を発病したが、半年の闘病生活を経て、社会復帰を果たす。
北海道大学医学部作業療法学科で教鞭をとるなど、介護教育に力を入れている。

また、著書『わたし、生きるからね』(岩波書店)などほか多数あり。

著書・出版

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